不公正取引審査へのAI導入(野村證券×アビームコンサルティング)

ディープラーニング 活用事例紹介 #10[野村證券株式会社]

 証券業界でもAIやディープラーニングの活用は様々な分野で進んでおり、コンプライアンスの領域でも活用が始まっている。

野村證券㈱ 代表取締役常務 コンプライアンス共同統括兼内部管理統括責任者 水野 晋一氏より

 野村グループには、100年にわたって蓄積された運用データがあり、ビジネス部門においては、多様化し続けている顧客ニーズに対して、日々努力を積み重ねて対応している。ビジネス部門との両輪を担うコンプライアンス部門においてもAIを始めとした最新の技術を取り入れて、日々高度化し、顧客の要望に適切に応えていく必要がある。
 野村グループでは、グループ全体でAI活用を戦略的に推進し、全社員対象のAI活用推進や、最新技術を活用した資産運用・市場分析・顧客サービスの高度化、リスク管理の強化など、多面的な価値創出に取り組んでいる。
 その中でも人材の育成を大変重視しており、G検定勉強会事務局を設けて、社員による自主的な学習体制を整備し、ここ数年間の取組みで、既に400名以上の合格者を出している。
 今回のプロジェクトについても、野村證券のメンバーは全員G検定の合格者であり、取組みの成果が会社としても着実に出てきているように感じている。

 野村證券はグローバルカンパニーであり、先進的な取り組みを行う事で市場の健全性を保つ役割を担っている。企業におけるサステナビリティ・コンプライアンス活動が金融機関を選ぶ要素の一つになっていることから、ミドル・バックオフィスにおいても世界水準のサービスが求められる。実際に、AIの導入状況について顧客から照会を受けることもある。ビジネスサイドを支える上でもAIの導入を始めとしたIT技術の活用は大変重要であり、また健全な取引環境を提供する上でも必須であると考えている。
 今回のプロジェクトの対象は、金融商品取引法の不公正取引規制に関するものである。不公正取引とは、インサイダー取引や相場操縦等を指す。証券会社は市場のゲートキーパーとして不公正取引に対する売買審査を行っている。貯蓄から投資の流れを受け、マーケットが活況なことにつれて、年々売買審査の対象となる取引の数は増加している。審査品質を維持・向上させる上でもAIの活用等の機能拡充を進めていきたい。

 AIの活用については、野村グループにおいても喫緊の課題であると認識しており、不公正審査領域については若手社員によるAIプロジェクトの立ち上げを昨年度実施しており、メンバーの不断の努力によって、今回の成果に繋がった。
 ここで課題となったのは、コンプライアンス部門は金融商品取引法についての知見は持ち合わせているものの、数理面で本格的に要件定義を出来る者はいなかったことである。実際の検証にあたっては、法律知識と数理のギャップを埋めるべく、アビームコンサルティング社のAIの専門家をコンサルティングとしてプロジェクトに入って頂き、最新の統計分析手法やAIを活用しながら、データ起点で新たな価値創出に取り組んだ。プロジェクトを通じて、AIと金融の専門家双方が知見を持ち寄り、業務目線でも新たな発見や気づきが生まれる「協創」の場となった。

 今回の成果として、過去数年間の売買審査における知見を統計分析、機械学習でモデル化することで、大量に抽出されるインサイダー取引審査について、ルールベースでの審査対象の分類と機械学習をベースにしたコメントの付与を可能にした。アラートとして抽出された口座の全件についてコメントを事前に記載することによって、従来の審査負担が軽減された。さらに上場株式発行会社の社員等が重要な関係者(あるいは内部者)に該当するかの情報を付加することで従来の審査精度の向上にも寄与している。

<従来までの審査>

<現状の審査>

 今後は、日々のデータを蓄積していき、定期的なモデルの検証、改修を進めてモデルの精度を高めていくとともに、審査で下した判断の証跡を適切に管理し、いつでも過去の判断の検証、外部への説明が出来る状態を維持していく。

 

アビームコンサルティング AI Leapセクター Director 宮田 裕生氏より

 今回のプロジェクトでは、野村證券様が長年蓄積されてきた業務知見や仮説を、私たちアビームコンサルティングがこれまでに培ってきた、統計・AIに関する高度な専門性と、金融セクターの俯瞰的な業界知見を活かして、スピーディかつ着実に検証することができました。野村證券の皆様と議論を重ね、現場の皆様が日々感じている課題や、実際の業務フローを深く理解した上で、AIモデルの開発・チューニングを進められた点が大きな成功要因であったと考えています。
 まずは野村證券様から提示された仮説を迅速に実装・評価し、AI活用の可能性を現場で具体的に示すことができました。その結果を踏まえて野村證券の皆様と議論を重ね、審査員の方々が納得できる特徴量の選定や、肌感覚に合ったモデルの開発に注力しました。証券業界へのAI適用においては、モデルの透明性が強く求められること、そして現場の業務適応を考えた際には、人とAIの協働、AIへの信頼感の醸成期間が重要であると考えています。そのため、透明性を確保しながら検知すべき取引の見逃しを最小限に抑えるような学習を重ね、現場の皆様が安心してAIの回答を利用できるようチューニングしました。これは、高い総合性能を目指すだけではなく、”使えるAIモデル”を開発する指針として1つの答えになったと考えております。現場で本当に使えるモデルに仕上げるため、既存システムへの導入を短期間で実施し、業務負荷軽減や審査強化に貢献できたことを嬉しく思います。
 また、導入後も現場の声を反映しながら継続的な改善を重ね、AIが“使い続けられる”仕組みづくりにも力を入れています。今後も、野村證券様の業務高度化や健全な取引環境の実現に向けて、AI技術を最大限活用し、現場の皆様とともに新たな価値創出に挑戦していきたいと考えています。

野村證券㈱ 代表取締役常務 コンプライアンス共同統括兼内部管理統括責任者 水野 晋一氏より

 今回の成果を受けて、AIの有効性を確認するとともに、相場操縦やその他の分野においても導入を進め、業務の高度化・効率化を通じて、コンプライアンス領域においてもROEの向上に寄与し、ビジネス部門と一体となって、顧客のニーズ、利便性、安全性に適切に対応し、金融機関としての務めを果たしていきたい。

この記事を書いた人

野村證券株式会社

本社所在地:東京都中央区
設立:1925年(大正14年)
https://www.nomura.com/

事業内容:証券会社として、資本市場を通じて、個人投資家のみなさまをはじめ、さまざまな企業のみなさまに、資産運用・資金調達などのサービスを提供しています。
コンプライアンス管理部  Vice President 中山 勝盛、Vice President 沈 啓光、Associate 長田 多矢

アビームコンサルティング株式会社

本社所在地:東京都中央区
設立:1981年(昭和56年)
https://www.abeam.com/jp/ja/

事業内容:アビームコンサルティングは「Real Partner」の理念のもと、戦略立案から業務改革、IT導入、アウトソーシングまで一気通貫で支援し、構想力と現場実行力を強みに、経営現場、グローバルとローカルをつなぎます。AIやデジタル技術を活用し、顧客と共創しながら新たな価値を創出し、社会課題の解決と持続的成長に貢献します。
AI Leapセクター Manager 小此木 慎哉、Manager 菊池 健太