全社員対象G検定取得キャンペーンで“合格者330人超え”を達成 ラックが育む「学び」を促す社風と制度

今回お話を伺ったのは、「たしかなテクノロジーで『信じられる社会』を築く。」を全社のパーパスに掲げ、システム開発とサイバーセキュリティの2本柱で事業を展開する株式会社ラック。

同社では、2022年5月から全社員にG検定の資格取得を促す「G200」キャンペーンを開始。一年にも満たない間に、それまで約40 人だった社内のG検定取得者を、330人以上にまで増やすことに成功しました。さらに、G検定取得者の次のステップとして、ハンズオン形式の「AI開発研修」を社内教育機関内に新設。研修参加者は実際に手を動かすことで、現場での実践力を高めています。

ラックでは、どのような経緯でデジタル人材育成の取り組みに着手したのでしょう。また、具体的にどういった取り組みを推進し、どのような成果が出ているのでしょう。「学び」に対する独自の評価システムと合わせてお聞きしました。

Profile

倉持 浩明 氏

執行役員 サイバーセキュリティオペレーション&イノベーション事業領域担当CTO

藤田 正紀 氏

人事部 人事サービス室 人事育成・人材育成・採用グループマネージャー

ザナシル アマル 氏

セキュリティイノベーション統括部 イノベーション推進部 イノベーション開発グループ マネージャー

青野 有華 氏

セキュリティイノベーション統括部 イノベーション推進部 イノベーション開発グループ

G検定取得者数“200名”を目指す全社員向けキャンペーン

ラックは2019年の中期経営計画の中で、社会や企業のDX化や、サイバー攻撃の激化・高度化といった環境の変化に対して、「耐久力」「適応力」「デジ力(デジタル活用力)」という3つの力の向上を成長戦略として定めました。

「耐久力」とは、市場の変化に対応するため、筋肉質な経営体制へと変化させるというもの。「適応力」は、DXやAI活用の加速など市場環境の変化に適応し、自らもイノベーションの起点となるべく尽力すること。そして、この2つの力を向上するため、ラック自体がデータドリブンな経営へと変換を図り、社員が積極的にデジタル技術を活用し、顧客サービスにも還元していこうというのが「デジ力」の向上です。

「デジ力」向上のため、同社ではまずRPAやPower Automate(Microsoft 365)などを活用し業務の自動化を推進。そのためのトレーニングにも力を入れ、バックオフィスを含む多くの社員がワークフローの自動化を実現しました。

「その次に何をしようかと考え、取り組んだのがG検定取得の促進です」と、倉持氏は「G200」キャンペーンを実施した経緯を振り返ります。

「AIの取り組みは、ここにいるザナシルや青野が所属するイノベーション開発グループが担当しています。全体で約2000人いる社員の中の一握り、少数精鋭のチームで、特定のお客様向けにAIのソリューションを開発したり、相談に乗ったりしていました。しかし当社が今後『適応力』を高め、実際にイノベーションを起こしていくためには、AIでどんなことができるのか、どんなことができないのかを、特定の人間だけでなく全社員に知ってもらう必要があります。そこで着手したのが、全社員にG検定の取得を促す『G200』キャンペーンです」(倉持氏)

椅子に座るスーツを着た男性  自動的に生成された説明
「G200」キャンペーン開催の経緯について話す倉持氏

キャンペーン実施最大の目的は「共通言語」を作ること

エンジニアなどの技術系だけでなく、なぜ営業やコーポレート部門を含む“全社員”にG検定の取得を促したのでしょう。倉持氏はその理由を「社内に共通言語を作りたかったから」だと説明します。

ラックでは、サイバーセキュリティ事業を展開する上で、情報処理安全確保支援士(IPA)やセキュリティプロフェッショナル認定資格(CISSP)などの取得を促し、同事業に携わる社員のほとんどが資格を取得しています。

「サイバーセキュリティやシステム開発については社員の間にすでに共通言語を持っているということになります。ところが、AIに関しては共通言語を持つ人が少なく、AIに関する考えが社員同士で異なる可能性が高い。これは競争力を高める上で大きな障壁になります。だからこそ、技術者だけでなく、営業や管理職を含む全社員にG検定を取ってもらうようにしたのです」(倉持氏)

さらに、「ユーザー企業様がイノベーションを起こそうと必死に勉強されている中で、我々がAIについて学ばないのはおかしい」との考えに至ったことに加え、「社員を評価する側の管理職がAIについて知っておく必要がある」ことも理由に挙げます。

「特に近年は、AIに関するカリキュラムを通ってきた新卒採用の社員が急増しています。管理職側がAIに関する知見を持ち合わせていないと、彼らのいいところを評価できないばかりか、彼らの能力を事業に反映することもできません。そのため管理職の皆さんにもG検定の取得するよう強くお願いしました」(倉持氏)

「管理職から取ってほしい」強く促したことが大きな成果に

ラックでは、2022年5月に、社内のG検定の取得者数200名を目指す「G200」キャンペーンを開始。公式テキストを無料配布することに加え、全社員を対象に奨励金を提供することで参加を促し、「資格取得者数330人超え」を達成しました。

当初の目標を大幅に上回る成果につながったポイントはどこにあったのでしょう。「会社として、事業活動におけるAI活用を社員に求めていると明言したこと」に加え、「管理職に率先して受けてもらうよう伝えたこと」が大きかったと倉持氏は分析します。

「これは技術者だけの問題じゃない。技術者はもちろんだけれど、管理職の皆さんにも取ってほしいと、各部門に私が説明して回りました。その場で、なぜ会社がこの取り組みを進めているのか、どういう思いで、なぜ取得してほしいのかを丁寧に伝えていったのです。やはり上司が学ぶ姿勢、挑戦する姿勢を見せることは、大きな説得力を持つと思います。上から取ってほしいと強くお願いしたことが成果につながったのだと思います」(倉持氏)

さらに倉持氏は、Microsoft Teamsなどの社内コミュニケーションツールを活用し、申込期限間近にアナウンスしたり、G検定取得に成功した社員に聞いた勉強方法などの情報を発信。CTOである倉持氏が率先して取り組む姿に、G検定やE資格を取得しているザナシル氏や青野氏らイノベーション開発グループのメンバーも触発され、勉強に最適なコンテンツを情報発信したり、倉持氏が発信した情報をフォローアップしたりと様々なサポートを行いました。

G検定取得を促す情報発信の様子(画像提供:ラック)

「CTOの姿勢に触発されたのは私たちだけではありません。社内のあちこちのチームや部署で勉強会が開催されるなど、G検定取得に向けた気運が社内全体で高まりました。このことも大きな成果を生んだ要因だと思います」(ザナシル氏)

“手を動かし”実践力を培うAI講座も新たに設置

ラックのデジタル人材教育における、もうひとつの主軸となっているのが「AI開発講座」です。ラックでは、全ての社員に学びの機会を提供する場として、横断型教育機関の「LAC Univ.(ラック ユニバーシティ)」を設けています。その活動のひとつに「トップガン講座 」というものがあり、そこに新設されたのが「AI開発講座」です。

「当社には非常に専門性の高い技術を持ち、第一線で活動するエンジニアが何人もいますが、そうした社員が自ら講師となり、半年ほどかけて次世代のトップを育てていくのが、『トップガン講座』です。業務とは別の取り組みですから、講師となった社員には講師料を払う仕組みになっています。もともとトップガン講座には、サイバーセキュリティ関連の講座のみ用意していましたが、今回の『G200』キャンペーンと合わせ、『AI開発講座』を新たに設けたという経緯になります」(藤田氏)

AI開発の講座を新設した主な理由は、「G検定を取得した人の次のステップとして、“手を動かす場”が必要だったから」だとザナシル氏は言います。

椅子に座っている男性  中程度の精度で自動的に生成された説明
「AI開発講座」新設の狙いを話すザナシル氏

「基本的にG検定は教科書を読みながら学びますが、やはり我々エンジニアはそれだけではダメで、手を動かしながら学び、実際に現場で使えるようにする必要があります。そこで我々は、G検定取得者向けの次のカリキュラムとして、AIを開発するためのスキルを習得するためのハンズオン講座『AI開発講座』を立ち上げました」(ザナシル氏)

「AI開発講座」は開講から半年ほどですが、すでに新入社員を中心に60名ほどが受講。

「まだ取り組みは始まったばかりですが、現場のエンジニアから『今まで気づけなかったお客様のニーズが見えるようになった』と声が上がるなど、顧客インサイトの発掘につながる兆しを随所で感じています」(ザナシル氏)

スクリーンショットの画面  自動的に生成された説明
「AI開発講座」の内容(画像提供:ラック)

「AIを学び、新たなキャリアを進む」リスキリングの事例も

ではラックにおけるデジタル人材育成は、“個人レベル”ではどのような変化をもたらしているのでしょう。その代表的な事例として、金融機関向けのシステムエンジニアからデータサイエンティストへと転身した、イノベーション開発グループの青野氏にお話を聞きました。

もともと青野氏は、金融機関のサーバ管理やデータベース管理などを担当するエンジニアでした。しかし3年前、以前から興味のあった「AIやデータ分析をする業務に就きたい」と手を挙げ、AIやデータ分析を研究する会社に2年間出向します。

「それまでAIの存在は知っていたものの、実はAIやデータ分析について本格的に学んだことはありませんでした。そこで、まずは幅広く知識を身につけようと挑戦したのがG検定とE資格でした」(青野氏)

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自身のリスキリング体験について話す青野氏

青野氏は業務に携わる傍ら、公式テキストを用いて勉強を進め、G検定とE資格を取得します。その後、出向先の会社に移り、論文を執筆するなどデータサイエンティストとしてのキャリアを着実に重ねていきます。その際、G検定とE資格を得ていたことが、さまざまな利点をもたらしたと言います。

どちらも幅広い知識をカバーする資格でしたので、アイデアの引き出しが広がるという点で大きなメリットがありました。幅広くカバーできていないと、例えば時系列分析をする際、GRUやLSTMといった時系列モデルだけでなく、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)といった一般的に画像認識に使われるモデルを時系列分析に使う事例があることを知らなかったかもしれません」(青野氏)

現在、青野氏は、ラックが運営するセキュリティ監視・運用サービス拠点「JSOC(Japan Security Operation Center)」に蓄積されたデータを分析し、業務改革や新サービスの開発を行なっています。ザナシル氏によると、青野氏の事例は「先端技術を学び直して、新たなキャリアに進む」リスキリングのモデルケースとして、社内でも注目を集めているとのこと。

イノベーション開発グループでは、青野氏を含む5人がリスキリング後にAI関連業務に就いており、今後もこうしたキャリアチェンジを希望する社員の受け入れに注力していくとのことです。

「我々は『AIの仕事をしたい』と望む社員に、学び直しの機会を提供し、実際に業務に携われる受け皿を用意しています。このことは『AIの仕事をしたいから別の会社に転職する』といった形の離職を抑えられ、かつ新たなビジネスを生み出せる可能性が高まるという点からも、大きな意味があると考えています」(ザナシル氏)

「学び」を数値化し評価につなげる仕組みで下支え

ラックでは、社員の「スキルアップ」や「学び」をどのように評価しているのでしょうか。まず藤田氏は、会社全体として「一般的な『役割』による評価軸に加え、『スキル(専門性)レベル』という評価軸も用意している」と説明します。

椅子に座る男性  中程度の精度で自動的に生成された説明
評価システムについて説明する藤田氏

さらに、部下が上司と目標を設定するときや、期末にその達成度合いを振り返る際には「『業績』だけでなく、『スキルアップ』や『学び』も考慮する仕組みになっている」とザナシル氏は言います。

「ひとつのプロジェクトにはたくさんのエンジニアが関わりますから、一エンジニアが目標を設定するとなったときには、一人当たりの売上の比率は少なくなってしまいます。そこで、その人が『どれだけ行動したか』がわかるよう業績以外の部分も数値化するようにしています。そのひとつが『どれだけ勉強したか』を評価するもので、例えば『資格の取得数』や『社内勉強会でどれだけ発信したか』などをチェックしています」(ザナシル氏)

一方、管理職側にも「管理職コンピテンシー」という制度が用意され、「スキルアップ」や「学び」が促されていると倉持氏は説明を加えます。

「『管理職コンピテンシー』というのは、管理職だけに適応される評価軸で、10項目ほどあります。その中に『あなた自身はどれだけスキルアップに努めていますか?』『部下の規範になっていますか?』と聞く箇所があり、これらが明確に個人の能力(コンピテンシー)として定められています。部下にスキルアップを促すならば、やはり評価する側の上司も勉強しないといけないでしょう。こうした仕組みにより、全社員の『学び』を後押ししています」(倉持氏)

さらに倉持氏は、“ポジティブな学び”を生む仕掛けとして2018年から毎年実施している「トレ☆フェス」という取り組みについても言及しました。これは、当時ラックにおいて実施していた働き方改革の一環としてスタートしたもので、「学び方改革」と銘打ち、さまざまな研修コースを用意し、社員に提供しているそうです。

「例えば、お笑い芸人を呼んでコミュニケーションを活性化させようだとか、ヨガの研修だとか、皆が気負わず楽しめるものを用意しました。なぜそんな研修を用意したのかというと、『学ぶ楽しさ』を感じてもらいたかったから。きっかけは何でもいいので『学ぶ楽しさ』をあらためて感じてもらい、今後の積極的な『学び』の姿勢につなげてもらおうと考えたのです」(倉持氏)

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「トレ☆フェス」で開催された企業フィットネス講座の様子(画像提供:ラック)

このように社員のポジティブな『学び』を促すカルチャーがラックには根付いており、この社風が今回のデジタル人材育成の取り組みを下支えしているのではないか、とのことでした。

今後もラックでは、G検定の取得推進を進め、青野氏のようなキャリアパスの人材を積極的に育成していきたいとのこと。

「我々はAI技術だけを極める会社ではありません。しかし、AIを使ってどういう風に自分たちのビジネスを変えていくか、お客様に新しい価値を提供していくかというところに、さらに踏み込んでいこうと考えています」(倉持氏)

同社のデジタル人材育成の取り組みと、その先に見据える新たなビジネス展開に期待が高まります。

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