培った伝統技術と教育手法を土台にDX~GXを視野に入れるトピー工業

今回お話を伺ったのは、「鉄をつくり、鉄をこなす」を標榜し、高い技術力と一貫生産体制を軸に、鉄鋼生産から自動車用ホイール、鉱山機械用ホイール、建設機械用足回り等の部品製造まで行うトピー工業。1921年に創業した同社は100年以上の歴史を持ち、北米、中国、インド、東南アジアなどグローバルに事業展開しています。

2022年、同社は大きくDXに舵を切りました。同年6月に経済産業省が定める「DX認定事業者(DX-Ready)」の認定を取得するなど、重要な経営戦略にDX推進を据えてデジタル人財の育成を加速させています。

「人は最大の財産」とし、「『人財』基盤の強化」に取り組むトピー工業は、どのような経緯でデジタル人材育成の取り組みに着手したのでしょう。また、具体的にどういった取り組みを推進しているのでしょう。トピー工業でキーマンとしてDX推進を進める執行役員DX戦略部長 川上 浩司様にお話を聞きました。

Profile

川上 浩司 氏

執行役員 DX戦略部長

スマートファクトリーとデータ連携に向けてデジタル人財育成が急務

まず、デジタル人材育成に踏み切った背景を伺いました。川上氏がDXを主なミッションとしてトピー工業にジョインしたのは2年前。歴史が長いゆえにレガシーシステムが残っており、今後の法対応の課題やデータの散逸、業務の属人化などが懸念されていました。それに対しトピー工業では川上氏着任の前からERPを一元化して業務改革を進めデジタル化によるスマートファクトリーを目指す流れがあったとのことです。

「弊社は 『鉄をつくり、鉄をこなす』というところで“One-piece Cycle”というコーポレートメッセージを発信しています。その流れの中でデータを連携し、いろんな部署同士をつなげていき、経営の迅速化にもつなげていく。そのためにはデジタル人財の育成が大切だと考えました。これが背景の一点目です」(川上氏)

さらに、トピー工業は多くのグローバル拠点を有しています。例えば、異なる拠点で同じ自動車用ホイールを造るとすれば、スマートファクトリーで遠隔の拠点同士をつなぎ情報共有することにより、工場と日本が同じスタッフの目線で改善ができ、現地派遣のニーズを減らすことができます。日本のマザー工場で一元的に技術管理を行い、その他の工場の操業を監視・コントロールしたり、さらに、サプライチェーンや生産の最適化したりといったことまで踏み込んでいきたいというビジョンをお持ちです。

「それら(データ連携やスマートファクトリー運用)を中長期計画の中で進めていく上で、やっぱりデジタル化とデジタル人財育成がベースになります」(川上氏・以下同)

これが背景の二点目になるとのことです。つまり、トピー工業の業務改革にはDXが必須であり、それを担うデジタル人財育成が急務と感じられたわけです。

個人の意識と伝統的な管理手法のアップデートがDX人財育成のキモ

それではトピー工業はデジタル人財育成をどのように進めているのでしょうか。川上氏は「個人の意識のアップデート」と「伝統的な管理手法のアップデート」だと語りました。

まず「個人の意識のアップデート」については、まずメンバー個々がデジタルに対する素養と、それを使いこなすための知識をアップデートし、ビジネスとしてのデジタルの素養を持つこと。具体的には、スタッフ層からデジタルに対する理解を深め、製造現場に展開して「こんなに便利に、安全になるのか」という共感を広めて欲しいということです。

「テーマを決め、データを使いこなすという意識付けをするトレーニングを展開します。各事業部でスモールスタートで進め、データが使えるように慣れていこうと。これが人財育成の一つのカードですね」

もう一つ「伝統的な管理手法のアップデート」については、歴史の長い同社では品質や生産を安定させるための「QCサークル活動」(小集団改善活動)や「TOC」(ボトルネックの改善活動)など伝統的な管理手法が確立されており、その手法が代々磨かれてきました。そこにデジタルの観点を入れることです。具体的にはBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを事業部のスタッフに配布し、デジタル人財教育の要素を組み入れて磨かれた管理手法のアップデートに取り組んでいるとのことです。

その活動を具体的に展開するための第一ステップとして、トピー工業では、DX、IT、AIの理解のためのe-learningの導入を始めました。2022年6月にDX戦略部を立ち上げ、経産省にDX認定事業者として認定され、これらの取り組みを精力的に進めているとのことです。

トピー工業は経産省よりDX認定事業者と認定された(トピー工業提供)

「G検定」を受検、他社との交流機会も人材育成につながる

そんな中、川上氏は、部下であるDX、ITを推進する社員にデジタル系資格試験を受検させていくことを決めました。それはe-learningの効果を図るためであり、テストを受けることによって、記憶定着や応用力が増すことが期待されるという理由からです。

そして川上氏自身も「G検定」を受検、合格されました。

「僕自身も短期記憶が衰えていく中、だいぶ苦労しました(笑)。 通る、通らないよりも、やっぱり、やることの方が大事かなと思ったのですね。幸い合格しました」

トピー工業が定めるDX成熟レベル(トピー工業提供)

トピー工業は、「DX成熟レベル」をレベル1からレベル6までに定量化しています。製造業全体のレベル感を伺うと、川上氏は「2.5ぐらい」で「自社は2.2から2.3ぐらいですか」と謙遜されます。

ご自身が「G検定」を受け、会社としてJDLAに参加したことにより、懇親会などで他社の合格者と交流できることも副次的な効果だと述べます。「若手部下と一緒に他社の若手社員とITやAIをテーマとした討議の場を持つこともあり、とても意義深く、うれしく感じている」(川上氏)と話しました。

「実はそういった交流の場自体も教育の一環ととらえています。若い社員あるいは管理者、いろんな階層でこういう出会いが生まれ、先端技術と触れ合うことで気付きが生まれる。そんな機会がJDLAに入ったことで増えるような気がします」

DXは現事業の強化と未来のGXに向けて

自社のDXの進捗具合について、きびしい採点を下した川上氏ですが「トピー工業の製造現場には底力がある」と述べます。

「何せ、日本で自動車産業の黎明期から自動車用ホイールを造っていた会社です。100年間安定した品質のものをつくり続けているということは、やはり現場には底力があるということです。培われたものをレガシー化しないためにERPを刷新し、基盤ができたタイミングで私が加わらせてもらった。DXしてデータをしっかりつないでいけば技術を進化させていける。これはいいチャンスじゃないかと思うわけですね。とは言え、上から目線で進めることでは決してありません。悩みながら、今一緒にやっているというスタンスなのです」

トピー工業がそうしてDXに向かう原動力は、未来を見据えてのことなのか、それとも現場のものづくりを進める上でより良いものを造っていく延長線にあるのでしょうか? と伺うと、両面を見つめてのことであるようです。

「基本的には事業体を将来全く異なる姿へと大きく変えるためのものではなく、今ある強みをより強くしていくための変革だと思っています。目指すところは、グリーン化つまりカーボンニュートラルの推進にDXをビルトインすることです。」

実はトピー工業は東日本大震災後に「電力の“見える化”」にいち早く取り組まれています。

「今後はパーツごとにどれだけ電力やエネルギーを使っているかを明示し、より効率化してグリーン化と連動していきたいのです。DXの取り組みはそこへの橋渡し的なところもあります。現場の強みをさらに強くすることとDXからGX(グリーントランスフォーメーション)につなげていくということ。現状の改善と未来への布石、両面ですね」

G検定合格から変化した物の見方

G検定合格の経験から「問う力」の大事さを学んだと語る川上氏

― ここから「G検定」の合格者としての川上氏のお話を伺います。そもそもご自身でも受検されたのはどうしてでしょうか?

「私は製造現場が長くIT部署での経験がほとんどなかったのです。それでいろいろ資格などを検討している中で、データをつなげていくという観点において、『G検定』の内容はすごくいいなと。部下には、“AIはこれから近い将来避けて通れないものになるだろう。むしろみんながこれを勉強して、これまでのやり方を変えるぐらいになってほしい”と告げました。自分自身のITリテラシーの低さも感じていたので、自分の強みを上げながら部下と一緒に成長したいと。そのためにはここをしっかりわからないと共に成長できないと考えて受けたのです」

― 当媒体の合格者インタビュー記事も「G検定」受検の後押しになったと伺いましたが。

「正直、最初、ちょっときびしいかなと思っていたんですね。ところが(調べると)事務系の方もG検定に合格されています。自分が技術系の端くれなのにできないというのは言い訳にすぎないと思って、頑張りました(笑)。 やっぱりちゃんと学べば、全ての人の意識が変容するんじゃないか、そのためのツールになるんじゃないかと、こう感じたわけですね。なのでG検定を選んだのです」

― 実際、どのように学習されたのでしょうか?

「1ヶ月ぐらい公式テキスト問題集をやりました。通勤列車の中ではKindleで問題を解くなど細切れ時間を使いました。帰ったら今度は本を見て勉強しました。試験が2時間ですが、2時間集中するということ自体、自分の年齢としては結構つらいんですよ(笑)。 そう思って図書館に行き、2時間席を立たず問題と向き合う集中力訓練みたいなこともやりました」

― 「G検定」はハードルが高かったとお感じですか? それともみんなちゃんとやれば受かるという感触でしたか?

「そうじゃないですね。相当やらないと受かりませんね(笑)」

― 「G検定」の中で、ここは勉強して良かったととくに感じるところはありますか?

やっぱり深層学習(ディープラーニング)ですね。価値とかあるいは報酬とかを教えると問題を解けるとか相関を見つけてくる。気づかないことに気づくということですよね。あとアノテーション(画像への注釈付け)は目からウロコでした。あと、G検定でよかったのは歴史を学べたことですね。例えば“chatGPTはイライザと一緒”とか言われたときに、何かピンとくるようになりました。いろんなことも歴史の必然性を理解すると学びやすいと思います」

― 「G検定」を受けられての影響は他にもありますか?

「ITベンダーさんなどと話す時にも、対話がはずむようになりましたね。あと、月並みですけど、chatGPTにトライしました。AIってこういうふうに対話してやっていくと変わっていくんだなと、まさに対話して生まれるものだということを感じるようになりましたね。あと、非構造データですね、データにならないデータ。この前も議論したんですけど、作業員の動きを撮って分析したら、作業標準ができるというような可能性があるだろうと。昔だったら、ビデオに撮って延々と分析しなくてはならなかった。そんな可能性を思いつくようになりましたね」

― 業務に関して違う切り口で発想が出来るようになったと言うことでしょうか。

「そうです。もし『G検定』を学んでなかったら、(GPTなど新しい技術に)批判的な論法に踊らされていたかもしれませんね。“不完全である”とか“嘘を言っている”とか。しかし問いかけ方が変われば全然答えが違うと思うのですよ。部下には「問う力を磨きなさい。質問力がないとAIを使いこなせないですよ」と言っています。聞く力、理解する力以上に「問う力」も大事だということをG検定合格の経験から学び直しましたね

― ご自分で変わられたとお感じのことが何かあればお教えください。

「一番は“フットワークが軽くなった”ことですね。こういう話がわかる人に会うってこと(が楽しい)。明らかに変わりましたよね。もっと人のことを知りたいという感じに変わりました。時計のネジを巻き戻した感じですかね。うん。若返りました(笑)」

“勉強だけのための勉強”でなく、実践的な勉強に近づけるような仕組み作り

価値を共有する仲間によるコミュニティづくりを進めたいと語る川上氏

川上氏に今後の社内でのDX浸透についての展望を伺うと、プロセス改革にAIを使うだけでなく、日常的な業務改革、小さなことに使いたいと語りました。RPAなどで業務フローを自動化するだけではなくて、AIで“自分の思いつかなかったようなフローが生まれること”も望ましいということです。そのためには、全社員にデジタルに関する知識を身につけてもらいたいと続けます。

「でも、強制は嫌なんですよ、強制してもできない。だから業務が楽になったという事例を増やして行きたいです。そうして、“やってみようかな”という人が出てきたら、その時には“すでにツールはある程度完備できている”という状態にするというイメージです」

「G検定」を社員に勧めていきたいとのことですが、そこで大事なのは強制ではなく、金銭的な補助も考えるけど、何より自発的に受けてもらえるような土壌づくりのために、価値を共有する仲間によるコミュニティづくりを進めたいと川上氏は語りました。

「発言してもらう場を増やすとか、アイデアを吸い上げる機会を増やしていきたいですね。そのために、まずコミュニティを作りたい。みんなでラーニング仲間みたいになって、個々が成長していくことにより、何かのビジネスチャンスを掴んでくれるみたいな。“勉強だけのための勉強”じゃなくて、実践的な勉強に近づけるような仕組み作りをしていくことが私たちのミッションだと考えています」

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