[中部大学 事例紹介] 大学初!中部大学がE資格認定プログラムを導入した理由、そしてその準備の手順とは?-

E資格は、JDLAが審査し認定した講座(以降、認定プログラム)を修了していることが受験条件となっており、中部大学は、教育機関として2018年から認定プログラムの講座を大学院にて提供されています。
その取り組みの反響は徐々に広がり、多くの学生に支持されているほか、さらに2023年には、社会人向けリスキリング講座としてもE資格のプログラムを開講しています。

本記事では、当時認定申請を行い、また認定プログラムの講義を担当している山下教授と藤吉教授のお二人にインタビューを行い、E資格の導入の理由や手順についてポイントをうかがいました。
E資格の導入を検討されている教育機関の皆様のご参考になれば幸いです。

インタビュー
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山下 隆義(中部大学 工学部情報工学科 教授)※写真右
藤吉 弘亘(中部大学 工学部ロボット理工学科 教授)※写真左
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(目次)
資格で学生の知識を担保する。大学初のE資格認定事業者「中部大学」認定プログラム実施のきっかけとは?
認定を取るまでにどのような準備が必要?
ゼミの希望枠はすぐに埋まる人気!学生にどう認知度を高めていったのか。
講義の特徴は?そして社会人向けコースへの展開の狙いとは?
就職に有利?認定プログラム実施の効果とは?
これから認定を目指す教育機関の皆様へのメッセージとお役立ち情報

資格で学生の知識を担保!大学初のE資格認定事業者「中部大学」認定プログラム実施のきっかけとは? 

学生にAIの知識の「客観的な保証」となるE資格は進路に有益

2014年の段階から中部大学では、深層学習(DL)の講義や画像処理の研究があり、数多くのAIやDLの知識を身に付けた学生たちを社会に送り出してきました。ただ、AIやDLの知識があるということを客観的に伝えるのは難しく、学生たちに知識を身に付けたと“お墨付き“になる「資格」があれば、学生にとって就職などの進路に有益だと考えていました。

ただ、当時は、ITや情報技術に関する資格や、AI領域も「データサイエンス」「リテラシーレベル」「応用基礎レベル」のものはありましたが、DLの「実践」に特化した資格はありませんでした。

しかし、2018年にJDLAの「E資格」が登場。DLの実践に関する唯一の資格でしたので、学生に取得を勧めるために、認定プログラムの導入を決意しました。また、E資格試験のシラバスの範囲と既存の講義内容には重なる部分が多くあったことも、導入の後押しになりました。

学内の「資格取得奨励」の方針に合致するE資格

中部大学では、学生に資格取得を奨励していますが、外部機関のものなので受験の費用や時間の負担となる場合もあります。しかし、大学自体が認定プログラムを導入すれば、学生が他の事業者などで、費用や時間の負担をかけずに済みます。

特に、中部大学の学生の多くは、東海圏の製造業の企業へ就職する志向が強く、AIエンジニアに関する資格であれば有利になります。

ただし、認定プログラムを導入するには、JDLAの「認定審査」を受ける必要があります。こうした手続きに学内の協力は欠かせません。しかし、E資格取得も全学的な方針とずれることなく一貫性がありました。

さらに、認定プログラムを導入しようとしていた時は再編期だったので、新しい講義の調整や、予算獲得など、手続きを進めるのに協力を得やすい条件がそろっていました。結果として、手続きも円滑に進めることができ、大学として「認定プログラム実施事業者」の1号になりました。

認定を取るまでにどのような準備が必要?

複数以上の講義によって、JDLAの幅広いシラバスに対応が可能に!E資格合格には授業以外の自主学習のサポートも重要。

(point 1.)既存の講義を活用しつつ足りない部分は他の学科の教授と分担

E資格の試験を受けるには、JDLAの認定事業者を通じて指定範囲の学習プログラムを修了する必要があります。そのため民間の認定事業者は、プログラムの教材を一から作成している場合が多いです。

しかし、中部大学ではもともと、情報工学科に深層学習の講義があり、部分的には重なるところがありました。まずは、既存の講義内容をE資格のシラバスと合うように組み立て直すところから開始しました。一方で、シラバス全体の範囲は、とても幅広いので、既存の講義ではカバーしきれずに不足するところが出てきます。足りないところは、別途教科書や論文を参考にしながら新たに作成するなどシラバスに合うよう調整しました。

また、講義の実施は、AIに関する研究をする教授(ロボット理工学科)と連携し、分担することにしました。大学院(修士課程)の講義だったので、学生は複数の講義を学部・学科を超えて学ぶことができることもあり、講義の組み立ては柔軟に取り組めました。

(point 2.)試験対策の講義にとどめず自立したAIエンジニア育成が目標

講義の目標は、あくまでも学生がAIやDLに関する知識を身に付けることと「自力で開発できる」力をつけること。講義の位置づけは、「試験だけのため」ではないので、学生によってはE資格の試験を受けず修了する場合もあります。

あくまで、講義の内容を理解し自己学習すれば、試験に合格できるように設計されているのであり、「受験」だけが目的ではありません。AIやDLを理解した人材を育成する一環の中に、E資格があるという位置づけになっています。

(参考リンク)認定プログラム説明ページ

ゼミの希望枠はすぐに埋まる人気!どう認知を高めていったのか。

E資格は比較的新しい資格ですが、どのように学生の間に浸透させていったのでしょうか。

告知はゼミ生や講義を通じて展開

JDLAのシラバスに対応した講義の組み立てができた後は、講義中やゼミ生に資格を紹介しました。全学的にポスター掲示するなどの告知は行わず、学生に対して個別に伝えることで、認知度を高めていきました。

一般的に、学生にとって、なんらかの資格を取得するのには時間もコストもかかり負担となります。しかし、中部大学の認定プログラムは授業の延長であるため、時間と費用を節約できます。この点が学生にとっては魅力的に捉えられ、認知度も広がったのでしょう。

資格取得の実績が徐々に学生の中で浸透

ここ数年では、AIを使った技術が世に出ているので、学生関心が高くなっていることと「E資格」が取得できることもあってか、ゼミへの希望枠がすぐ埋まる状態です。学部生の間にも、E資格への認知が広まっているのか、院のゼミへの所属を待たずに、自力で資格取得をしたケースがありました。

なお、最近では東海圏の地元企業エンジニアの間でも「E資格」に対する認知が進みつつあります。中部大学でのE資格の認定プログラムに関して、共同研究先から「社会人向けにも実施してほしい」と要望を受けるほどです。こうした声を受けて、中部大学では2023年から社会人向けリスキリングとして、E資格のプログラムを開講することになりました。

講義の特徴は?そして、社会人向けコースへの展開の狙いとは?

講義は通年で実施、後期は演習中心

講義は通年で実施
講義は、春・秋のそれぞれのタームで週
1回90分を15回、開催。前期は確率統計や機械学習を中心に実施し、後期は深層学習に範囲を広げて演習を含めて実施しています。演習コードも、研究室で独自に開発したものなので、学習内容との一貫性があり理解しやすいように工夫されています。また、音声認識などは、講義時間外に個別講義を実施しています。
講義は、「難しい」と学生に思われる場合があるかもしれません。しかし、ゼミでの個別講義で繰り返し指導したり、自己学習をサポートしたり、講義以外の時間を使って学生の理解を深めています。

2023年時点で認定されている講義)
機械学習特論
コンピュータビジョン特論B

学生たちの自発的な自己学習の実施

学生には「自主学習」の重要性を指導しています。開講した当初は、山下教授からの声かけにより、授業時間外に輪講形式で自主学習会が開催されていましたが、以降は、ゼミ生たちがそれぞれ自主的に声を掛け合い学習し始めるようになりました。ある年は、受講する学生たちの研究領域が、うまくE資格のシラバスの範囲を網羅しており、輪講形式がスムーズに進められたこともありました。
これまで、E資格の合格率は9割を超えています。この高い合格率も、学生たちにとってモチベーションとなり、自主学習が活発に続けられています。

社会人向けコースでも学生との交流を促す

これから開講する社会人向けのプログラムも、春学期は毎週火曜日、3時間で15回、秋学期には、3時間で8回開催されます。社会人向けの講義には、実践的な内容も多くふくまれていて、DLの知識を理解するだけではなく、「データ収集」「アナテーション」とプロジェクト型になっているのが特徴です。
社会人向け講義には、博士課程の学生もTAとして参加することになっており、学生と企業との接点を設けるようにしています。

就職に有利?認定プログラム実施の効果とは?

“就職活動の面談での話題が広がった”

AIやDLの知識を身に付けたことが客観的にわかる資格なので、学生たちの就職活動には有効になっています。最近でも、就職活動を終えた学生によれば、履歴書に資格として書けると他の学生との差別化ができる可能性が高いと感じているそうです。また、E資格を知らない企業であっても、具体的に内容を説明することで、同時に学生が身に付けた「知識や技術」についてアピールすることにつながるので、話題の発展につながったと感じているようです。

“学生や社会人のAIへの関心の高まりに応えることができる”

内外の産業におけるAIの高度I化を受けて、工学部には産業用ロボットを開発したい、画像処理(自動運転)を学びたいとなど、AIやDLの分野の研究に積極的な学生が増えています。こうした学生たちにとって、E資格に向けた講義は、体系的な知識の獲得と資格の2つを得られるものとなって、魅力的に感じてもらえています。

“地域連携などの新しい取り組みへ発展”

学生以外にも、東海圏の地元企業の間やその他の大学でもE資格への関心は高まっています。特に、大企業から少し遅れる形で、中小規模の企業でもAI導入が進みつつあります。こうした地元企業からの「体系的にAIやDLを学びたい」という要請に対応すべく、社会人向けにプログラムをすぐに準備しました。こうして迅速に対応できたのも、学内での経験があったからです。
学部横断的な地域連携センターにて社会人向けコースが提供されるのですが、新たな地域との連携の展開ができたのも、E資格の認定プログラムを実施した効果の一つです。
さらに、2023年の4月からは、学部生向けにもE資格の認定プログラムが開講されます。AIロボティクス学科の3年生以上を対象にした講義で、学部生にはチャレンジな講義になるかもしれません。しかし、院生との勉強会など、サポートを厚くして少しでも合格に導けるようサポート体制を整える予定です。学部生にもチャンスを与えることができるよう展開できたのも、経験値を蓄積できた結果でしょう。

これから認定を目指す教育機関の皆様へのメッセージとお役立ち情報

E資格認定プログラムを目指す皆様へメッセージ

大学機関がE資格の認定プログラムを実施することは簡単ではないかもしれません。しかし、中部大学の経験から、学生にとっては就職活動時に他と差別化できるメリットがあることもわかりました。現在、日本国内でもDLを用いた業務は広がっていて、AIやDLを体系的に理解している人材が必要とされている中、E資格はその「人材の質を担保」するのに適切な資格だと思われます。ぜひ、大学機関には、認定プログラムの導入を目指してほしいと考えております。

また、「将来危険な作業を実践するロボットを開発したい」「画像処理の研究を深めて産業界に役立てたい」とAIの未来への展望を持っている学生たちはたくさんいます。こうした志高い学生たちの想いをかなえるためにも、講義のレベルアップやブラッシュアップは必要でしょう。

今後は中部大学だけでなく、他大学とも協力しながら認定プログラムに関する情報や経験を共有し、講義内容自体ももっと良いものにしていきたい。そして、国内の大学全体で、学生のE資格取得の底上げができたらと願っています。一緒に日本全体のレベルアップに向けて、大学においてもE資格の取得を広げていきましょう!

[お役立ち参考情報]

今回お話をお伺いした中部大学様より、これから認定取得を目指す教育事業者様向けに、認定取得の準備に役にたつ参考情報をご提供いただいております。

ご参照を希望される場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。後日メールにてご案内させていただきます。

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