【人材育成 for DX】開催レポート #1「ダイキン工業における人材育成の取り組みについて」

ゲスト:ダイキン工業株式会社 下津 直武 氏

JDLAでは、デジタル人材育成に積極的に取り組む企業から学ぶ、無料ウェビナー「人材育成 for DX」をスタートしました。このセミナーでは、DX推進の鍵となるデジタル人材育成に関して、毎回企業ゲストをお招きしながら様々な実際の取り組みをご紹介します。

2021年9月16日(木)には初回「人材育成 for DX #1」が開催され、ダイキン工業の下津 直武(しもづ なおたけ)さんをお招きし、同社のデジタル人材育成に関してお話しいただきました。

登壇者紹介

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター データ活用推進グループ主任技師

下津 直武(しもづ なおたけ) 氏

1992年ダイキン工業入社。設備設計向けCADシステム、空調機を主とした集中管理コントローラや遠隔監視システムなどのシステム商品開発に従事。2018年よりダイキン情報技術大学の事務局として各講座の企画・運営に従事。

JDLA 理事/事務局長

岡田 隆太朗(おかだ りゅうたろう) [モデレーター]

2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に⼀般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し、事務局長に就任。2018年より同理事兼任。緊急時の災害支援を実⾏する、⼀般社団法人災害時緊急支援プラットフォームを設立し、事務局長として就任。コミュニティ・オーガナイザーとして、数々の場作りを展開。

DX時代、デジタルを”使う”人材のリテラシーが重要

 まず、JDLAの岡田から本セミナーシリーズの趣旨説明とデジタル人材育成における課題意識を共有するとともに、デジタル人材に求められる能力をご説明。その後、下津さんによるプレゼンテーション「ダイキン工業における人材育成の取り組みについて」がスタートしました。

――下津

入社以来、システム商品開発を担当していましたが、2018年のダイキン情報技術大学立ち上げからデジタル人材育成に取り組んでいます。デジタル人材育成に携わるのであれば自分も知識を得ておかなければ、と2018年にG検定も取得しました。

ダイキン情報技術大学設立の背景はモノからモノ+コトに進化せねばという焦燥感

――下津

ダイキンは売り上げの9割が空調関係ですが、近年GAFAをはじめとするネットビジネス(コトビジネス)のプレーヤーが異業種のモノビジネスに突然参入する動きが見られます。
”モノ”から”コト+モノ”に私たちも進化しないと、地図が変わるかもしれない、と脅威を感じました。

この変革に立ち向かうためにデジタル人材の必要性を痛感しました。しかし、2017年当時は情報系技術職は社内の1%という状況で、なおかつ外部から採用するのも難しい。

では社内で育てようとスタートしたのがダイキン情報技術大学です。

2023年までに1500人の育成を

――下津

当社は①テーマ実行力(ビジネス力)、②分析力(データサイエンス力)、③データエンジニアリング力(エンジニア力)の3つの基礎スキルを兼ね備えた人材の育成を目的として大学で講座を開いています。

IPA(情報処理推進機構)のスキル基準を用いて基準を設定し、高いレベルの人材育成と同時に外部からの人材獲得に取り組み、2023年までに1500人の高レベルなデジタル人材育成を目標に置いています。

――下津

こちらの図はレベルの具体的な内容です。入学2年目の新入社員でレベル2に到達する程度の教育はできますが、問題はその先なんです。
レベル2の”わかる”と3の”できる”の間には大きな溝があります。さらにハイレベルになると、自分でできるだけでなくプロジェクトをマネジメントし、戦略的に実行できるところまで求められます。

さすがに一朝一夕とはいきませんが、新入社員向けー既存社員むけー幹部層向け、と段階を上げながら時間をかけて取り組んでいるところです。

メディアでも話題の「新入社員向け教育」 選抜メンバー100人は2年間、学びに集中

――下津

入学の仕組みとしては、技術系新卒300名から90名が選抜され大学に入学します。割合で言うと、非情報系が8割を超えていますので、1年目はIT・AIの基礎習得を座学を中心にしっかり習得させています。

大阪大学と連携した座学講義と並行して、知識を応用したプロジェクト型演習講義も実施して”つかう”練習も始まります。演習講義では、実際のクライアントからの要望に応えるテーマを出し、ビジネス視点やコミュニケーション能力も踏まえて実践することを大事にしています。

――下津

習熟度の確認には「E資格」をはじめとした、資格や検定を活用していますが、いずれも合格率は全国平均を上回っており、会社が力を入れた教育が結果に結びついていると思います。

2年目からはPBLでさらに経験を重ねる

――下津

2年目からは、複数の現場に入り込んだPBL(Project Based Learning)が始まります。メンターや有識者によるオフィスアワーなどのサポート体制や報告会の開催など、モチベーションを維持できる工夫もしています。

その先は、既存社員向け教育に移行します。3年目からは配属されますので、学んだことを実務に活かすという観点でカリキュラムを作成しています。

現業との並行で時間的な制約はもちろんありますが、受講者は元々将来のAI活用を担うキーマン候補として選抜されていますから、みんなモチベーションが高いですね。

設立から3年半経っての変化

――下津

PBLにおいては、当初は大学の存在が浸透度がしていないこともありテーマ集めに苦労しましたが、現在は現場からテーマがどんどん挙がってきて、数も2倍に増えています。

知名度としても、こうしたユニークな取り組みがメディアで報じられることもあり、今では大学入学を前提に入社を志望する学生もいますし、既にIT・AIの基礎知識を身につけた学生が非常に増えている印象です。
また、DX銘柄2020に選定されたことにもこうした取り組みが貢献しているのではないでしょうか。

座談会・質疑応答

下津さんのプレゼンが終わってからは、岡田と座談しながら参加者からの質問にお答えいただきました。

個別の質問とともに、参加者から特に気になるテーマを投票していただくスタイルで進行します。特に「B.教育プログラムの内容について」への関心が高いようです。

まずは岡田から根本的な質問をさせていただきました。

――そもそも、なぜこのように緻密で規模の大きな教育プログラムを作れたのでしょうか?

――下津

会長の鶴の一声ですね。『とにかく100名を2年間勉強させよう』と。当時は正直、なんで100人なのか根拠もない状況でしたが、今思うと100人同時に学べば集合知にもなりますし、仲間意識もできる。また自然と社内で認知される存在感もあります。大阪大学さんとの2017年の連携も設立に踏み出す大きなステップになりました。

この後は、参加者から寄せられた質問に回答いただきました。一部をご紹介します。

――会長から、育成をしようと言う号令が出てからどの位の期間で実現したのでしょうか?

――下津

2017年末に会長の一声があり、2018年5月には一期生受け入れでしたので、半年もなかったです。大阪大学さんとの連携しか決まっていなかったので急ピッチで準備を進めました。

――大卒だけではなく技術系の作業員を教育する機会もあるのでしょうか?

――下津

高専卒の技能職の社員もいるので、その中から選抜して教育する機会を設けています。

――教える側の確保はどうしているのでしょうか?

――下津

実は卒業生のうちの何名かをそのまま講師として大学に配属し教える側になってもらっています。設立当初は、大阪大学さんから講座をしてもらいつつ「さて、明日どうしよう」と作りながら動いている状態でした。

――コト・モノビジネスへの変革が大学設立の背景にあるとのことだが、大学での学びから実際、どう商品・サービスにつなげているのですか?

――下津

プロセスイノベーションとプロダクトイノベーションに分けて考えています。プロセスは業務改善や既存ビジネス、プロダクトはコトビジネスも含む新領域への挑戦ですね。成果としても、徐々に大学の卒業生が関わったイノベーション事例が出つつあります。

――浸透状況については100人をシンボルにしながら全社的な文化・気風が変わっていると感じますか?

――下津

PBLのテーマが現場から自然に出てくる状況になりました。設立当初の現場の反応が「何をやらせていい人たちなの?」「何ができるの?」という状況だったことを思い出すと、着実に浸透してきているでしょうね。

――設立まで時間のない中で、ダイキン独自のデジタル人材の定義はどう作っていったのでしょうか?

――下津

当初はとにかくAIを教える場所を作ろう、と正直定義も基準もないままスタートしました。学習内容も初年度はかなり分析に寄っていたという反省点もあります。そこから実際動きながら、学習内容のベターなバランスや人材の定義を進め、2年目でクリアになった感覚です。

その他、お答えしきれないほど多くの質問をお寄せいただき、デジタル人材育成に関する関心の高さが伺えました。

最後に岡田からJDLAの狙い、企業会員、行政会員、各資格事業のご説明させていただき、大盛況の中セミナーは終了となりました。

実施レポート

初開催となった「人材育成 for DX #1」は約180名にご参加いただき、参加者アンケートでは「大変満足」が約7割、下津さんのプレゼンに対しても「大変参考になった」が7割を超えました。

オンラインセミナー「人材育成 for DX」は今後もさまざまな企業の実践者をお招きし、月に一回のペースで継続して皆様にデジタル人材育成の事例をご紹介してまいります。

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