【人材育成 for DX】開催レポート #3「ダイハツから学ぶ、現場から始める全社におけるAI人材育成」

ゲスト:ダイハツ工業株式会社 太古 無限氏

JDLAでは、デジタル人材育成に積極的に取り組む企業から学ぶ、無料ウェビナー「人材育成 for DX」を開催しています。このセミナーでは、DX推進の鍵となるデジタル人材育成に関して、毎回企業ゲストをお招きしながら様々な実際の取り組みをご紹介。そのノウハウを紐解き、お伝えします。

登壇者紹介

ダイハツ工業株式会社 東京LABOデータサイエンスグループ グループ長

太古 無限(たいこ むげん)氏

2007年にダイハツに入社。 エンジン制御開発を経て、2020年から全社員のAIスキル向上をサポートする東京LABOサイエンスグループのグループリーダーに就任。2017年に国内MBAを取得。また、2020年7月から滋賀大学データサイエンス学部インダストリアルアドバイザーに、2021年5月から工学院大学情報学部テクニカルアドバイザーに、同年9月から東京都市大学情報工学部インダストリアルアドバイザーにそれぞれ就任するなど、大学でもAI実装の重要性を教えている。

JDLA 理事/事務局長

岡田 隆太朗(おかだ りゅうたろう) [モデレーター]

2017年、ディープラーニングの産業活用促進を目的に⼀般社団法人日本ディープラーニング協会を設立し、事務局長に就任。2018年より同理事兼任。緊急時の災害支援を実⾏する、⼀般社団法人災害時緊急支援プラットフォームを設立し、事務局長として就任。コミュニティ・オーガナイザーとして、数々の場作りを展開。

「このままではゆでガエルになる」という危機感

まず、JDLAの岡田から本セミナーシリーズの趣旨説明とデジタル人材育成が急務であるという現状の共有をはじめ、デジタル人材が身につけるべき能力についてご説明。その後、太古さんによるプレゼンテーション「現場から始めるAI人材」がスタートしました。

――太古

私が所属する東京LABOデータサイエンスグループは、私の提案により誕生した組織です。『AI活用事例を増やす』『全社員のAIスキル向上をサポート』『2025年までにAI民主化を実現する』という3つのミッションのもと、AIを誰もが当たり前のツールとして使えるようになるためにはどうするか、具体的な数値目標を決めて取り組んでいます。

このグループを作った理由は、世の中ではすでにAI活用が当たり前になっている中、『AIを駆使しないと生き残れない時代になっている』と感じたからです。かつ、自動車業界は100年に一度の大変革期時代と言われています。この環境変化にいち早く気づかなければ、ゆでガエルのように茹で上がって死んでしまう。このような危機感がありました。

私がAIの勉強を始めたのは2017年のことでした。最初は3人ほどの勉強会でしたが、徐々に社内でもAI活用推進が広がり今に至ります。

ダイハツの文化に『改善マインド』があります。私が生まれる以前の昭和31年から始まった改善提案活動により、当社は小さな改善を積み重ねることが習慣化しています。そういった文化の中で、AIをどのように活用していくかは一つの軸となっています。

ゆでガエル

AI人材育成の方針は「AIを使うことを目的としない」

――太古

2019年には、『個々の学びだけではダイハツのAI活用は進まない』『AIを学ぶための気づきを与えたい』という思いから、全社AI研修の実施を人事に提案しました。現在はAI活用の重要性は浸透していますが、当時はあまり理解が進んでいない時期。毎週のように人事部の担当者とディスカッションを行い、熱い思いでもって粘り強く提案していきました。その後、2020年1月に全社AI研修体系の合意をし、同年12月にリリースしました。

全社AI研修の体系は、最低限のAIリテラシーを全スタッフ職が学べるように構築しています。ダイハツにおけるAI人材育成の考え方は、課題を解決し、ビジネスインパクトを創出できる人材を育成すること。ポイントは『AIを使うことを目的としない』点です。そのため、全社研修ではPythonは教えていません。

また、AIアイデアを相談してAI活用につなげる活動として、AIアイデア相談会やAI実装相談会を定期的に開催しています。相談会でのポイントは“無理にAIを使おうとしない”こと。業務プロセスを確認し、無駄排除、業務改廃、ルールベースで改善できないかを考えた上で、残った部分についてAI活用できないかを考えるよう導いています。さらに、AI活用事例共有会もオンラインで年2~3回実施。社内でこういった発表会をすることで興味を持つ人の輪が広がり、さらなるAI活用の加速につなげています。

学ぶきっかけ作りとして、G検定とE資格の取得を応援

――太古

AIを学ぶ際の基本方針はアクティブラーニングです。インプットだけではなく、どうアウトプットするかがポイントです。AI実装事例を作りながら知識を養っていくような取り組みを進めています。

部内AI研修では、学ぶきっかけを構築する体系を構築しています。ダイハツは理系の社員が多いので、学ぶきっかけさえあればあとは自ら学んでいく人も多い。つまり、どのように学ぶきっかけを作るかが大切になってきます」

そのきっかけづくりとして、マネジメント職にはG検定、実務者はE資格の取得を応援するチャレンジキャンペーンを展開しています。例えば、部内のキーパーソンにG検定を受けてもらいます。『これは必要な知識だ』と実感してもらうことで理解者を増やし、さらにその重要性を発信してもらうことで受験者を増やしていく。G検定やE資格の受験は、資格取得が目的ではなく、あくまで学ぶきっかけ作りです。AI活用しやすい組織へと進展させていくためのステップであると捉えています。

会社職制外の団体を利用して楽しくPythonを学ぶ

――太古

全社AI研修、部内AI研修のほかに、『ダイハツ技術研究会』もAI人材育成において大きな役割を担っています。『ダイハツ技術研究会』は、新しい知識の吸収と技術の向上を目指し、普段の業務後に自己研鑽の場として参加するもので、会社職制外の団体で業務外活動にあたります。

2019年に私が『ダイハツ技術研究会』の幹事になったタイミングで、『機械学習研究会』を新設しました。そこで、『機械学習に興味ある人』を募集したところ、約100人も応募がありました。現在もモチベーション高く活動しています」

「全社AI研修ではPythonを教えない方針である一方、『機械学習研究会』ではPythonのプログラミング能力を養う機会を提供しています。1人で嫌々取り組むのではなく、グループで一緒に楽しくPythonを学習した方が成長しますし、そこから業務に応用していくことにもつながると考えています。

以上のように、ダイハツのAI人材育成は現場起動で提案しながら実施しています。各社の文化や施策に応じた取り組みを進めていただければと思います。

続いて、質疑応答の模様をレポートします。

座談会・質疑応答

プレゼンテーション終了後、モデレーターの岡田と座談をしながら、参加者からの質問にお答えいただきました。個別の質問とともに、参加者から特に気になるテーマを投票していただくスタイルで進行します。特に「社内の巻き込み方の秘訣は?」への関心が高い参加者の方が多いようです。

まずは岡田からの質問をご紹介。

――今回のセミナーは「現場から始める」がキーワードです。どの会社さんも、上司を巻き込んだり人事に提案したりするときに苦労されることが多いと聞きます。ポイントはありますか? 

――太古

まず巻き込み方については、小さく始めたところがポイントだったと思います。上から目をつけられると『勝手に何をやっているんだ』と止められてしまうこともあると思いますが、私たちはコソコソ隠れてやり始めました(笑)。もちろん、トップダウンに比べたらボトムアップは時間がかかります。それでも、『やらないといけない』というパーパスを持ってさえいれば、他部署での興味がある人や、自分と同じく苦労している人と水面下でつながることができる。そして、徐々に輪が広がっていくと思います。

人事への提案に関しては、『絶対に必要なんですよ!』と熱量を持って訴えたことですかね。私は、人事のキーパーソンと話す場を何度も設けてもらって、しっかり話したら分かってもらえました。『AIの知識は全然わからない』ながらも、私の話に耳を傾けてくれる人にたまたま巡り合えたことも大きかったですね。

――他に、キーパーソンを巻き込んでいくところで、工夫されたことはありますか? 

――太古

AI活用事例共有会も大々的に始めるのではなく、少人数の身内だけで行いながら実績をつくっていきました。ある時、誰かが事例共有会のことを社長に報告したらしく、突然社長が参加。そこから急激に広まっていったというエピソードがあります。小さい活動であっても、見てくれる人は見てくれているのだと感じています。

――太古さんはかなり早い段階から「AIを民主化する」ことの重要性に気が付かれていました。なぜそのように思い至ったのでしょうか?

――太古

表計算ソフトのExcelが登場した当初、『なんだこれは』『手書きの方が早いだろう』といった風潮がありましたが、今では誰も当たり前のようにExcelを使っていますよね。私もAIについての勉強を深めた結果、『AIもいずれExcelのようになるはず』『誰でも当たり前に使える時代が絶対に来る』と思うようになりました。機会学習もどんどん進化していく中で、『これは早くやらないといけない』と思い活動をスタートしました。

――実際に、どのような部署でどのような事例が生まれていますか? 

――太古

例えば工場部門では、画像やセンサーを使った事例が生まれています。人の目の部分を置き換えるところとして、異常検知や予知保全の事例は短期間で増えています。自動車メーカーは多種多様なデータが取れるんです。工場のデータ、走行データ、人事データなど、前処理をしなくてもいいデータを多く持っていたことも事例作りがしやすかった要因かもしれません。

次に、参加者から寄せられた質問の一部をご紹介します。

――G検定・E検定の受験に際し、社内で受験料補助やお祝い金制度などはありますか? 

――太古

受験料補助はありません。私は『会社に払ってもらったら手抜きしちゃうな』という気持ちが心のどこかにあるので、自分で払うからこそ学ぶ気持ちになると思っています。ただ、G検定やE資格の受験のための教材費用は会社が負担します。『学ぶ環境は作るけど、最後やりきるところは自分で頑張ってね』ということですね。また、資格取得が人事評価への影響することもありません。あくまで学ぶきっかけ作りとして活用しています。

太古さんには、セミナーの終了予定時間をオーバーするまで参加者から寄せられた質問にご丁寧にお答えいただき、大盛況の中セミナーは終了となりました。

オンラインセミナー「人材育成 for DX」は今後もさまざまな企業の実践者をお招きし、月に一回のペースで継続して皆様にデジタル人材育成の事例をご紹介してまいります。

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