「価値ある存在を目指す」ためAI人材育成に注力 社内外でDXをリードする人材へ

[G検定 合格者インタビューvol.16]ディープラーニング × 全社を挙げてのリスキリング

2018年から本格的にAI事業をスタートした西川コミュニケーションズ。それと同時に、G検定取得に向けた勉強会の開催など人材育成にも力を入れている。DX事業部の近藤 都雄(こんどう くにお)さんには、同社が進めるAI事業や人材育成の方針について、金子 奈未(かねこ なみ)さんには、G検定を受験したきっかけやビジネスに活用するための課題やポイントを聞いた。

G検定合格者プロフィール

G検定2019#1合格

近藤 都雄さん

西川コミュニケーションズ株式会社 DX事業部

G検定2018#2合格

金子 奈未さん

西川コミュニケーションズ株式会社 DX事業部

社長の大号令でAI事業がスタート

――まず、近藤さんにお伺いします。現在の部署や業務内容を教えてください。

近藤:DX事業部でエンジニアリング担当の責任者を務めています。様々なエンジニアリングの会社さんと私でビジネスを作り上げていき、お客様に対してサービスを提供していく部分の監修をしています。

――AIをどのように事業に活用していますか。

近藤:1906年(明治39年)に名古屋で創業した当社は、印刷事業を主軸にお客様の情報伝達のお手伝いを続けていました。近年では、デジタル化の潮流を捉えて、事業の中核にデータ収集・利活用、ICTでの業務効率化などのソリューションを提供しています。AI事交代業は、データの利活用の一環でいち早く全社を挙げて取り組んできました。

AIソリューションの一例が、自然言語処理を活用した商品レコメンドの開発です。流通業界でのAI化を推し進めるものとして、2021年にリテールAI研究会による「第1回リテールAIアワード」を受賞しました。

このAIソリューションは、トライアルホールディングス(福岡市)様が運営する実店舗で導入が進む、決済機能付きの買い物用カート「スマートショッピングカート」を利用したものです。来店客がカートで商品をスキャンすると、結びつきが強く同じ価値観を持った商品が売り場の場所や価格と一緒に即時にレコメンドされる仕組みです。

POSデータに基づいたレコメンドでは、購買履歴のない新製品や購買実績が少ない商品はレコメンドされないという課題がありました。しかし、商品の説明文をAIの自然言語処理の技術を使って読み込ませ、どのような価値観を持っている商品であるかを分類することでその課題を解決しました。たとえば「ビールを買ったらおつまみをおすすめする」という単純なレコメンドではなく、「プレミアムビールを買ったら高級ごま油をおすすめする」というカテゴリーは異なるが同一の価値観をもった商品のレコメンドがおこなわれます。過去2回の店頭実証実験では、実際にレコメンドされた商品の購買実績が上がったというデータも取れてきており、実用化に向けて取り組みを進めているところです。

――AI事業に力を入れ始めた時期は。

近藤:2017年に、西川栄一社長が「AIによって会社のビジネスモデルを変革していく」と意思表明をし、専任部署を設置してAIの事業化をスタート。JDLAにも加盟しました。

同時に、人材育成にも力を入れ始めました。松尾豊JDLA理事長の著書『人工知能は人間を超えるか』を約400人の全社員に配布し、全拠点・全社員を対象に社内のAIの勉強会も実施しています。2018年からは会社としてG検定の取得を推奨し、受講料のサポートも行っています。一時期は、社員の約4分の1にあたる87人がG検定を取得したという状況にありました。AI専門企業ではない会社のG検定の取得率としては、非常に高いのではないかと思っています。

私自身も2019#1で取得しました。2017年のJDLAに加盟した当時、私は広報の部分を担当させていただいていました。AIの知識やAIを使ったビジネスがどう広がっていくかという知見を得ることができたこともあり、それを社内にも通達しつつ、自分も取得してビジネスにつなげたいという思いで取得しました。

――AI勉強会の旗振り役の部署や、具体的な活動内容について教えてください。

近藤:2017年当時はまだDX事業部はなく、総務部をはじめとする各部署から集まったメンバーで構成する「教育プロジェクト」があり、そこが旗振りを担っていました。

勉強会は主に2種類あります。1つは、AIの知識を身につける入り口として、G検定取得に向けた勉強会です。当時の教育プロジェクトの担当者が各拠点をまわって勉強会を行ったり、既に合格した社員が勉強方法や試験内容について伝えていったりする形で、合格者を広げていきました。

もう1つは、AIをどのように活用すれば事業改革や業務改革につながるのか話し合うディスカッション会です。有志の社員が参加して意見交換したり、外部講師を招いた講演会を開催したりしています。

――目指すべき人材像はどのように設定していますか。

近藤:当社は「価値ある存在を目指す」という企業理念を掲げています。DXが進む昨今の世の中で「価値ある存在」になるためには、デジタル技術を習得し、ビジネスで使いこなせるようになり、社内外でDXをリードしていく人材になることが必須です。

我々は印刷工場を持っていますし、職人のように印刷をコントロールしている方もいます。そのような方にとっては、デジタルはとっつきにくいものであり、そもそもデジタル技術を必要としていないかもしれません。しかし、それでもデジタル人材育成に踏み出していかなければ、どういう障害・障壁が存在するのか、それを乗り越えるためにはどういうことをしなきゃいけないのかもわかりません。それが、全社を挙げてデジタル人材育成を始めた背景にあります。

AIの知識だけでなく「ビジネスとしてドライブさせていく方法」を考える力が必要

――続いて、金子さんにお伺いします。まず自己紹介をお願いします。

金子:2014年に入社し、現在はDX事業部に所属しています。お客様のDXをサポートすることを一番の使命に、近藤さんのエンジニアチームと二人三脚で役割分担しつつ、お客様との調整や社内調整などを担当しています。

――G検定を取得した理由を教えてください。

金子:以前の部署で流通を担当していたとき、お客様の戦略をサポートする提案をしていました。その提案の選択肢を増やし、会社として掲げる「価値ある存在になる」ためにも、AIを学ぶ必要性を感じていました。そんな時に、会社からG検定取得の案内を受けて興味を持ったのがきっかけです。

また、前の部署は流通の中でも主にファッションを担当していたのですが、「ささげ業務(撮影・採寸・原稿制作)」はとても工数がかかる作業です。なおかつ、特に原稿制作の部分は、ヒューリスティックな作業があるのにもかかわらず、価格的にはさほど高くありません。そのため、派遣さんに担当してもらうことが多いのですが、「3年ルール」があるため知見が継承されていかないという課題がありました。そこでAIを活用した取り組みをしてみようと思ったのもきっかけとしてありました。

――学習期間と具体的な学習方法は。

金子:学習期間は2~3カ月ほどで、通勤時間中に公式テキスト読んでいました。会社で実施している勉強会も、試験直前に受講して本番を迎えました。

――学習されてみた感想はいかがでしたか。

金子:特に法律関連は、答えがないという点もあり難しく感じました。他の領域は、ネットで調べると詳しいことが出てくるので、「調べれば調べるほどわかる」という実感はありました。

――ビジネスを進める上で、G検定で学習したことがどのように活かせていますか。また、「まだまだ足りないな」と思うところがあれば教えてください。

金子:以前の部署において、アルゴリズム等の知識を得たことによりささげAIプロジェクトの起動修正を行うことができ、AIによって原稿作成業務の属人性を廃し業務改善を達成することができました。また、現部署にて実際にお客様にAIを活用した提案を持っていけるようにもなりました。一方で、お客様から案件として受注するまではまだ至っておらず、AIの知識だけではなくて、ビジネスとしてどうドライブしマネタイズさせていくかを考える力はまだまだ足りてないかなと感じています。

多くのお客様は、「お金を出すからには投資対効果がないといけない」と思われていると思いますが、その効果とAIエンジニアの価格に開きがあることが多い気がしています。AIの価格よりも下回る効果に投資をいただけるお客様は少ないので、そこにいかに付加価値をつけるか、その付加価値と価格をどのように見合わせていくのかが難しいなと感じています。

社長もG検定を取得、リスキリングの後押しに

――ふたたび近藤さんにお伺いします。金子さんのお話を聞いて、西川コミュニケーションズさんでは「新しい技術を学んで価値ある人材になっていこう」という風土が広まっているように感じます。

近藤:AIを学ぶのが目的ではなく、お客様のためのサービスを生み出すのに「AIを手段として使う」という形になってきていると思います。また、G検定は社長がほぼ金子と同じタイミングで取得しており、社長が自らリスキリングをしているので、我々も頑張ろうという後押しになっています。AIを学ぶ環境を整えることで、「会社は将来に向けて勝負をしていくんだ」というわかりやすい指針にもなっていますし、5年後10年後にまた別の技術が出てくれば、「また全社一丸となって向かっていくんだろうな」という期待もできます。常に新しいことを学んでいける環境があるのが、当社の特徴のひとつでもありますね。

――2017年頃から始めたAI勉強会などの取り組みについて、反響や見えてきた課題は。

近藤:先ほど、4分の1の社員がG検定を取得したとお話ししました。合格者の多くは営業企画やデジタルに近い部署の社員で、やはりAIに接する機会が多い者から反応がありました。どうしても社内温度差はあり、「学んだことをどう消化したらいいのかわからない」という声もあります。今後は、AIとの関わりが遠い部署にまで、どのように合格者を増やしていくのが課題です。

G検定の取得の前段階として、AIやDXを噛み砕いてもっと身近であることを理解してもらうような教育プロジェクトも追加で進行させています。それが浸透していけば、G検定合格者も増えるでしょうし、実際のAI活用にもつなげていけるのかなと思っています。

――近藤さん、金子さんのお二人にお聞きします。G検定取得をどんな人に勧めたいですか。

近藤:中高生からスタートしていいんじゃないかなと思います。G検定は、ビジネスでAIを少しでも触ろうと思ったときに役立つ資格だと思っています。将来社会人になってどんな仕事をするにしても、例えば工場で決められた定型業務をやる人でも、新たなビジネスを創出する人でも、お店で接客業をやる人でも、どんな仕事に就くにしてもAIは絶対について回る。社会人になってから学ぶのも良いですが、私自身が取得して思うのは、もっと若いうちから学んでおくものなんじゃないかなと感じています。

金子:私は、漠然とAIについて知りたいなと思っている人には受けていただきたいですね。何か「勉強したいな」と思ったとき、勉強方法を考えるのが大変だったりしますが、G検定はシラバスに沿って勉強するだけ。今やどの分野でもAIは当たり前になってきているので、職種・業種に限らず、AIを学んでみようと少しでも思える方ならおすすめです。

――最後に、お二人から今後の展望と意気込みをお願いします。

金子:漠然ではありますが、社会課題を解決できるAIなどのソリューションを生み出していきたいなと思っています。

近藤:社会環境が変化する中で、会社としても人材としても生き残って、価値を提供していかなければなりません。特に我々はお客様があってのビジネスがメインなので、お客様が置かれている市場に対して、競争優位性を確保できるサポートを、AIのみならずDXという形でしっかりとサポートをしていきたいです。もちろん、お客様のみならず、自らのDXも推進していくことが、今まででもやってきたことですし今後も続けていきたいと考えています。

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