老舗百貨店からAIスタートアップへ出向 未来の小売業像を描くために「選択肢としてAI活用を当たり前に」

[G検定 合格者インタビューvol.8]ディープラーニング ×未来の小売業像

三越伊勢丹からJDLA正会員のGAUSS(ガウス)へ1年間出向している小田将輝さん。GAUSS はAI開発を通じ新規事業の創出や業務効率化の支援を行うスタートアップで、三越伊勢丹ではバイヤーを務めていた小田さんにとっては大きく異なる業種だ。それにもかかわらず、出向社員を募る公募に自ら手を上げ、GAUSS出向前には自主的にG検定も取得した。そんな小田さんは、百貨店という小売業の未来をどのように描いているのだろうか。

G検定合格者プロフィール

G検定2021#1 合格

小田 将輝さん

株式会社GAUSS 営業企画本部

「百貨店のこれまで商売のやり方では支持され続けない」という危機感

――三越伊勢丹からAIスタートアップのGAUSSに出向されているとのことですが、出向のきっかけを教えてください。

小田:2010年に三越伊勢丹に入社し10年以上百貨店で小売業界に携わってきましたが、従来の商売のやり方がお客さまや世の中に支持されにくくなってきているように感じていました。未来の百貨店像や小売の在り方を描くにはどういう力を身につければよいかと考えたとき、今急速に発展しているAIやディープラーニングなどのテクノロジーを当たり前に使えるようにならなければいけないと思いました。その一歩として、GAUSSへの出向を募る公募に手を挙げ、2021年4月に出向しました。

――「これまでの商売のやり方ではお客さまや世の中に支持されにくくなっている」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

小田:一つは情報の取り方です。これまでは、自分の足で産地に通ったり展示会を巡ったりして情報を仕入れ、そこでしか出会えないものやこれまで見たことがないものを仕入れてご紹介することでお客さまに価値提供する、ということをずっと行ってきました。しかし、近年はSNSで情報が広まる速度が上がり、お客さまの方が情報を知っていることも多々あります。「これまでのやり方を進化させていかなければ世の中に必要とされなくなってしまうのでは」という危機感がありました。

また、新たな取組先へのアプローチにおいても、これまでは人の繋がりで連絡先を聞いてメールを送ったり、事務所へアポイントを取って訪問したりすることが一般的でしたが、若い世代の後輩は「InstagramでDMを送っておきました」と当たり前のようにやっています。(笑) 会社に貢献して世の中の役に立つためには、今の自分を世の中の変化に合わせてアップデートさせるような経験をしなければ、と思いました。

――現在の会社のDXに携わるのではなく、AIを専門的に扱うスタートアップへの出向という形を選んだのは、より「力をつけなければ」という強いお気持ちがあったのでしょうか?

小田:三越伊勢丹の組織内にも、情報システムやオンラインの顧客体験をデザインする部署など、DXやOMOを推進する業務が多くあります。しかし、百貨店事業をメインとする自社の中で、DXやシステムに携わるよりも、AIやテクノロジー活用を主要事業としている会社に入り込んだ方が発想や経験の幅が広がり、帰任後により未来の百貨店像や小売業像を描けるのではないかと考えました。

――G検定を受験されたのも、出向がきっかけですか?

小田:出向の公募の選考過程で、GAUSSとの面談がありました。その際に「何か事前に学んでおくことはないか」と尋ねたところ、GAUSSからG検定のことを聞き、受験を決めました。

僕は何事も一歩目のスタートダッシュが肝心だと思っています。GAUSS出向後にG検定の勉強をスタートするのではなく、最低限の力を身につけ、最初から戦力になりたいという思いがありました。そこで、2021年3月の#1の試験に向けて、1月から学習を開始しました。

――G検定の学習に際し、モチベーション維持のコツや勉強時間を確保する秘訣はありますか?

小田:受験勉強のようですが、参考書を見ながらわからない用語を調べてノートに書くという方法をとっていました。文字で埋まったノートを見て「これだけ勉強したんだ」「着実に知識を身につけられている」と自信を付けることで、モチベーションを維持していました。

また、学習時間は合計30~40時間は確保しないと合格は難しいと言われていたので、そこから逆算して予定を立てていました。平日夜に30分から1時間、休日は3時間ほど継続的に勉強する時間を確保していました。

――実際に学習をして、AIやディープラーニングに対する印象は変わりましたか。

小田:学習する前は、AIは「何事も全て解決できてしまう魔法のようなもの」だと思っていました。そうではなくAIも人と同じで間違えることもある、ただその精度は近年急速に発展しているんだということを学びました。ビジネスに活用しない手はないけれど「何でも解決できる」と思ってはいけないなと感じています。

百貨店でもAIスタートアップでも仕事の本質は変わらない

――現在、GAUSSで担当されている業務内容を教えてください。

小田:営業企画本部に所属し、さまざまな業種・業態の取組先の新規事業の開発や業務課題を解決するAIを活用したソリューションの提案を行っています。

三越伊勢丹ではバイヤーとして、伊勢丹新宿店や銀座三越でライフデザイン(リビング)の領域を担当していました。インテリアのアイテムを仕入れて店舗で展開するという仕事だったので、全く異なる業務ですね。

――“百貨店のバイヤー”から“AIスタートアップの営業”という大きな転換に戸惑いはなかったのでしょうか。また、GAUSSでの仕事を通じて得た発見はありますか。

小田:戸惑いはありませんでした。そもそも「全然違うところに飛び込むんだ」という意識を持っていたので「理想とのギャップ」は一切なく、「こういうものか」と受け入れることができたのだと思います。

この仕事を通して改めて感じたことは、「お客さまへの価値提供を行う」という仕事の本質は、業務内容が変わっても同じだということです。

バイヤー時代は、「お客さまのために、お取組先とどういった商品開発ができて、どういった商品やサービスをお届けできるのか」を常に考えていました。現在は立場も仕事内容も異なりますが、関わるお取組先の向こう側にもお客さまやユーザーがいて、そのお客さまの悩みを解決して価値提供をしているという点に関しては同じだと感じています。AIはあくまでツールのひとつであり、お客さまのお困りごとや課題を見つけて一緒に解決していくという仕事の本質は変わらない。これは、GAUSSでの仕事を経験して気づいたことですね。

――GAUSSで新規事業の開発や業務課題の解決への提案を行う中で、AIやディープラーニングなどのテクノロジーの必要性は実感されていますか?

小田:「選択肢として持つこと」が重要だと思います。GAUSSでの仕事を始めて強く思うことは、リアルの力、つまり三越伊勢丹でいう百貨店事業ですが、この価値は非常に高いということです。リアルでお客さまに価値を感じて頂けているポイントを押さえながら、AIやディープラーニングを活用する使いどころを見極められる人材となる必要があると感じています。

――GAUSS出向前にG検定を取得されましたが、得た知識やリテラシーによってスムーズにジョブを進めることができているという感触はありますか?あるいは、学習したことと実務とのギャップを感じていらっしゃいますか?

小田:AIを体系的に学べたおかげで、お取組先と対話する際に「この課題に対してはこういうアプローチが考えられます」とある程度の選択肢の提案ができているのではないかなと思っています。また、G検定を取得したことで自信につながっている面もあります。

ただ、率直な感想としては「G検定を取得したから仕事で成果を上げられるようになった」のかというとそういうわけではありません。むしろ、「お客さまの業務課題をヒアリングして理解する」という場面においては、G検定ではなくこれまでの三越伊勢丹での仕事の経験の方が役に立つことも多いです。実際にG検定が業務の中で役に立った度合いは2割程度かと思います。

お取組先であるものづくり企業へのAI活用も視野に

――1年間の出向期間を終えて三越伊勢丹に戻られたあと、GAUSSで得たことをどのように活かしていこうと考えていらっしゃいますか?

小田:百貨店でお客さまがより楽しくお買い物ができる顧客体験の向上のために、AI活用ができないかを想像しながらGAUSSで働いてきました。9カ月ほど経った現在考えていることは、顧客体験向上のためのAI活用だけではなく、素晴らしいものづくりを行っているお取組先のためのAI活用やDX推進の支援に活かす切り口もあるのではないかと考え始めました。

三越伊勢丹では1万を超える企業と取組をしています。そういったお取組先へのAI活用支援を行うことで、商品をより良い品質や価格で提供することができれば、結果的にお客さまの役にも立てると考えています。

――「顧客の体験価値の向上」と「モノ作りへのAI活用」という2つの視点で、今すでに考えているアイデアはあるのでしょうか?

小田:「顧客の体験価値の向上」に関しては、例えばお客さまの購買データなどをクラスタリングすることで個々のお客さまの嗜好に合った最適な商品を提案できる仕組みができれば、スタイリストや外商担当者とお客さまとの信頼関係やサービスの向上につながるのではないかと考えています。

また「モノ作りへのAI活用」に関しては、三越伊勢丹は全国にモノ作りをする企業様との取組があります。そのような製造業でAI活用を進めることで、不良品を減らしたり生産効率や作業効率を向上させたりできる可能性があるのではと考えています。AI活用はモノ作りの工程などの業務理解をしていないとうまく使いこなすことはできません。三越伊勢丹にはそれらの知見を持った社員が多くいることも、強みになると考えています。

AIは「この手があったか!」という驚きや発見を得られる存在

――これまでのご経験を通して、G検定を取得する意義はどこにあると思いますか?また、どのような人に取得をおすすめしますか?

小田:僕は、10年後の未来のビジネスを語るには、AIやディープラーニングを選択肢の一つとして、当たり前に話ができるようにならなければいけないなと考え、今の仕事をしています。G検定はGAUSSへ出向しなくても取得していたと思います。大げさな言葉になってしまいますが、自社や日本の未来を描きたいビジネスパーソンに学んでいただけたらと思いますね。

また、G検定を取得するだけで実際のビジネスには活かせない人もたくさんいると伺います。そういった方に向けてJDLAさんでは勉強会を主催されたりYouTubeでの動画配信をされたりしています。動画は僕もよく拝見していて、量子計算や数学など難しくて理解しきれない部分もありますが、他の企業さんの活用事例紹介は非常に参考になります。「今の業務の中でなかなか活用できていない」という悩みを抱えている方は、そういったものに参加してみるだけでも大きなプラスになるのではないでしょうか。また、GAUSSでは一緒に働く仲間を募集していますので、AIやディープラーニングをビジネスに活用したいという方は是非ご連絡下さい。

――AIやディープラーニングを学んだ小田さんが「ここが一番面白い!」といったポイントはどこでしょうか?

小田:人工知能とは言いながらも、人間とは違う得意・不得意があるところでしょうか。AIは人間の頭では到底処理できないような大量のデータを読み込んで結果を出してくれるものすごい頭脳を持っているものの、モデルや分析する内容によっては「えっ!こんなアウトプットしちゃうの?!」という人間ではしない結果を出すこともある(笑)。100%完璧じゃないところが魅力ですね。上手くハマる活用方法を見出せたときは「この手があったか!」という驚きや発見を得られる存在だと思います。

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