[G検定 合格者インタビューvol.15]ディープラーニング ×北九州市のAI活用(DX)推進
第1回「日経 自治体DXアワード」で、先進的なDXの取組を行う自治体として、「大賞」を受賞した北九州市。同市職員の髙塚 靖彦(たかつか やすひこ)さんは、自身の子どもたちがプログラミング教育が必修になることきっかけにG検定を受験。AIの分野に本格的に興味を持った髙塚さんは、文系ながらE資格も取得した。その後、北九州市のDX推進の司令塔として2021年4月に新設された「デジタル市役所推進室」に異動し、AI・RPAの導入にあたっている。AI活用はまだまだ官民格差があると言われているが、自治体でAI活用を推進するためのポイントはどういった点なのだろうか。
G検定合格者プロフィール
G検定2020#1、E資格2021#1合格
髙塚 靖彦さん
北九州市 デジタル市役所推進室
デジタル市役所推進課 行政サービス改革係長
「子どもに聞かれたら教えてあげたい」とG検定を受験
――まず、所属部署と業務内容を教えてください。
髙塚:北九州市役所のデジタル市役所推進室という部署で行政サービス改革係長を務めています。デジタル市役所推進室は、DXを推進するために2021年度に新設された部署です。私は主に行政サービス改革や内部事務改善の観点からAI・RPAの導入を担当しています。
――それ以前は、IT系の部門にいらっしゃったのですか。
髙塚:いえ、教育委員会や産業経済局、環境局などにおり、情報システム部門に携わったことはありません。大学も文系(法学部)でした。AIについての知識はありませんでしたが、興味と関心からなんとか頑張ってE資格まで取った、という感じですね。
――G検定とE資格を取得されたのは、いずれも現在のデジタル市役所推進室に異動される前ですね。受験されたきっかけを教えてください。
髙塚:G検定に興味持ったのは2020年1月頃のことです。私は中学生と小学生になる子ども(当時)がいるのですが、プログラミング教育が2020年度から小学校、2021年度からは中学校、2022年度は高校でも始まっていくという話を耳にしました。「もうそんな時代なんだな」と思っていた矢先、たまたま新聞か雑誌の広告でG検定の案内を目にしました。「AIはホットワードになっているけれど、よくわからないから勉強してみよう」と、早速公式テキストを購入し、3月に受験しました。
――当初は「仕事に活かそう」という動機ではなかったんですね。
髙塚:「子どもに聞かれたら教えてあげようかな」「世の中こういう流れだから、これぐらいは教養として知っておこう」というイメージでした。でも、かじってみるとどんどんと興味が湧いてきて面白いなと思いました。
――E資格も受験しようと思ったのはなぜでしょうか。
髙塚:2020年3月のG検定取得後の翌4月、本市の人事課による人材育成の一環で、資格取得助成制度が新しく始まったんです。業務に活かせて、かつ難易度が高めの資格を取得する際に申請し、審査が通れば最大10万円までの助成金が出る、という制度です。ちょうどE資格の存在を知ったタイミングではあったのですが、E資格は認定プログラムの受講にお金がかかるので二の足踏んでいたんです。しかし「せっかくなら」とダメ元で制度に応募すると助成を受けられることになり、E資格も受けることにしました。
ただ、G検定とE資格ではハードルの高さが全く違いました。私はAIを専攻していたわけでもなく、プログラミング経験もゼロ。E資格の助成が受けられることが決まったあとに「しまった、とんでもない資格に申し込んでしまった」と正直思いました(笑)。しかし、後には引けないのでせっかくなら最後までやれるだけやろうと思いました。
――E資格は選択式の試験を受験する前に、認定プログラムを受講して知識問題と実技課題を修了する必要があります。実技課題はいかがでしたか。
髙塚:プログラミング未経験の私は、この認定プログラムが最難関でした。当時は新型コロナウイルスによる第1回目の緊急事態宣言が出た時期だったので、在宅時間を有効活用しながら初心者向けのプログラミング学習サービス「Progate」「paiza」「PyQ」の3つでPythonを一気に勉強して、ある程度できるようになってから認定プログラムを受講しました。
実技課題はとても面白かったですし、「こういう仕組みでAIはできているんだ」とわかってきて個人的な興味を満たせましたね。そして、ゆくゆくは「仕事につながったらいいな」と思うようになりました。
――学習時間はどれくらいでしたか。
髙塚:G検定は約1カ月半で、白本(公式テキスト)と黒本(公式問題集)の2つで勉強しました。E資格はゼロからだったのではっきりとはわかりませんが、「paiza」や「PyQ」をやっていた時間を含めると少なくとも500時間はかかったのではないかと思います。
「日経 自治体DXアワード」で大賞受賞
――G検定・E資格の合格後、現在の部署に異動された経緯は。
髙塚:詳しくは後述しますが、北九州市は数年前からAI音声認識を活用した議事録等作成支援システムやAI-OCRなどのAIが導入されています。私も「こういうAIを入れてほしい」と、デジタル市役所推進室の前身にあたる情報政策課に要望を出していました。そういった流れもあり、「自分もAIを広げる立場になりたいな」と思っていました。
G検定までは教養のつもりでしたが、E資格は「仕事に活かせたらいいな」と思って取りました。そもそも、前述の資格取得助成制度は「業務に役立てること」が前提です。そのため助成制度に応募するときから「E資格を取れたらAI活用を進める部署に行けるかな」とは思っていました。異動希望調査の際に希望を伝え、デジタル市役所推進室への異動が叶いました。
――G検定・E資格の受験後、AIに対する印象は変わりましたか。
髙塚:最初は「これからAIにあらゆる仕事が奪われてしまう」「AIは何でもできるんだ」というイメージでした。現在の部署は各課の職員から「こういうことはAIでできそうか」という相談が寄せられるのですが、今の技術で実現できるか否かの目利きができるようになったり、「〇〇社が出しているこの製品を活用するといいよ」といったアドバイスもできるようになりました。
また、E資格まで取ったことで、素人ながらコードを書く大変さもわかるようになりました。技術者の人と話をする際に、技術者の方の考えていることやポイントが少しはわかるようになりましたね。
――2022年4月には、第1回「日経 自治体DXアワード」において、先進的なDXの取組を行う自治体として、「大賞」を受賞されました。北九州市のDXの状況について教えてください。
髙塚:北九州市は、2021年12月に「北九州市DX推進計画」を策定しました。少子高齢化による人口減少と団塊ジュニア世代が65歳以上になり高齢者人口がピークを迎えることで労働力の絶対量が不足することが懸念される「2040年問題」に対応するべく、デジタル技術を活用して労働生産性を向上させる必要があると考えています。
北九州市では、デジタル技術の活用により、行政サービスや市役所業務を抜本的に見直す市役所のDXを推進するとともに、地域のDXに波及・拡大させ、「デジタルで快適・便利な幸せなまち」を目指しています。そのために、12の「集中取組項目」を設定しています。そのうちのひとつに「AI・RPAの利用促進」があります。2017年度から市議会事務局でのAI議事録等作成支援システムを導入して以降、全庁的にRPA、AI-OCR、AIチャットボットを導入。2021年度は、約15,000時間の作業時間を削減しました。
「日経 自治体DXアワード」では、5部門中「デジタル人材育成部門」「行政業務/サービス変革部門」「地域産業デジタル化推進部門」の3つの部門賞を受賞したことで大賞受賞となりました。私が主に関わったのは「デジタル人材育成部門」と「行政業務/サービス変革部門」です。
まず「デジタル人材育成部門」では、ローコードツールを活用したシステム内製化の推進を行いました。サイボウズのローコードツール「kintone」の研修を実施し、業務改善のためのシステムを内製化できるような人材育成に取り組みました。
「行政業務/サービス変革部門」では、AI議事録等作成支援サービスやAI-OCRサービスなど、デジタル技術を活用した事務作業を各部署から集約して検証・実⾏する「デジラボ」を設置しました。2021年5⽉から12⽉までの試⾏期間8カ月で、約5,500時間の業務削減に実現しました。
――現在抱える課題と、今後の取り組みの方向性を教えてください。
髙塚:職員のAI・RPAリテラシーが高い状況にあるとはまだまだいえないため、AI・RPAを使いこなせるようにするとともに、人材育成の強化が課題のひとつです。個人的な野望としては、AI勉強会などのコミュニティを庁内に作って、行政におけるAIの活用方法等について調査・研究し、ノーコードツールによるAI内製化につなげたいと考えています。また、AI・RPAの利用促進するための前提として、各部署で異なる業務フローの共通化や、アナログな業務のデジタル化・データ化も必要です。
今後の方向性としては、北九州市初の先導的なAI×データ活用プロジェクトを創出して、「AI活用先進都市」を目指すことです。コモディティ化されたAIではなく、今まだ世の中にないAIを自分たちでつくってみたいと考えています。
例えば、今考えているのは、情報公開請求時の黒塗り作業をサポートするAIの開発です。市民の方などから行政文書の開示を請求された際、個人情報や機密情報にあたる箇所はマジックで黒塗りしてお出しするのですが、個人情報等に当たるか否かは、条例等と照らし合わせながら判断していきます。そこをAIがサポートしてくれるようなサービスを作れたらいいなと思っています。なかなか時間もなく、所管する職員たちも忙しいのですぐには難しいとは思いますが……。行政の現場には、このようなネタはまだまだたくさん転がっています。
“トップダウン”の行政は「上の立場の人こそG検定を」
――技術者側と事業部側で話が噛み合わず、AI活用のプロジェクトを進めようにもなかなか進まないという企業も多いです。技術者側がビジネス(現場)の視点を持つべきなのか、もしくは事業部(現場)側が技術者と対等に会話できるだけのリテラシーを持つべきなのか。髙塚さんはどちらのほうが必要性高いと思いますか。
髙塚:両方必要だと思います。ただ、圧倒的に日本は技術者の方が少ないので、ビジネス側がE資格などを取って技術者側にも寄り添っていく方がいいのではと、G検定・E資格を取得してみて思うところです。ビジネス側の人が、技術がわかったうえで「できる・できない」を判断するのと、技術がわからずにイメージだけで「こんなことできるんじゃない?」と思いつきで言っているのでは深みが違いますからね。
――行政に携わる方で、G検定・E資格の取得をおすすめしたい人はどんな方でしょうか。
髙塚:G検定は、全員が取ってもいいと思います。私が副市長ぐらいの立場であれば「全員G検定とりなさい」と言いたいぐらいです(笑)。そういう意味でも、G検定が要求する内容は上の立場の方こそ身につけてほしいと思います。行政は、特にトップダウンで「AI活用しよう」と言わないと進まない組織なので、市長や副市長、局長レベルの方々がG検定に合格したり、内容を把握していたりということであったら、DXも早く進むんじゃないかなと思っています。幹部職員がG検定の勉強をしてくれるといいんじゃないでしょうか。
北九州市は、幹部職員がG検定をとっているわけではありませんが、DXやAIの活用についてトップの後押しは強く、理解があるほうで、市長からは、何事も「デジタルファースト」で取り組むよう指示されています。局長級の上田紘嗣デジタル政策監は判断も早く、「やれるものはどんどんやっていこう」と非常に前向きな方。こうしたトップのリーダーシップが、DXアワードで大賞がとれた要因の一つだと思います。
E資格は、全員が必要とまではもちろん思いませんが、DX推進部門にいる人や、DX推進部門でなくても現場でAIプロジェクトをやりたいと思っている人にはぜひとっていただきたいですね。
いくらDX推進部門が現場の方に「こんなAIがあるよ」と言っても、現場の方がピンとこなければ活用は進まないですからね。私も現場の方に「こんな自治体向けのAI製品がありますよ」とセールスをしたことがありますが、「忙しい」の一言で終わったこともあります。「忙しいのを楽にするためにこういうAIの製品を入れるといいですよ」と言っても「ピンとこない」というケースが多いです。「面倒くさそうだから」「難しそうだから」と食わず嫌いで終わってしまうのはもったいないですよね。AIの音声認識やAI-OCRを使ってみて便利だと感じている人は多いので、そこで興味持ってくれた方からG検定をおすすめしたいなと思っています。