[G検定 合格者インタビューvol.22]
ホテル・旅館やレストランの予約サイトを運営する一休で、データプラットフォームエンジニアを務める菅野 勝(かんの まさる)さん。前職時代に、AI事業がスタートすることをきっかけにG検定を取得。その後転職した一休では、データ活用の先進企業の一員として活躍し、給与アップにも成功している。エンジニアとしてのキャリアアップに成功した菅野さんに、スペシャリストとして活躍するためのポイントついて聞いた。
【ポイント】
・前職時代、AI事業部への参画をアピールするべくG検定を取得。
・アプリケーションエンジニアやデータベースエンジニアとしてのスキルに、AIを掛け合わせることで市場価値を高める狙いもあった。
・データドリブン経営を標榜する一休に転職し、データプラットフォームエンジニアとして活躍。給料もアップ。
・「100人の凡人なデータサイエンティストよりも1人のスペシャリストが必要な世界」で必要なこと。
G検定合格者プロフィール
G検定2019#2合格
菅野 勝さん
株式会社一休 データサイエンス部
スキルの掛け算で市場価値の高い人間になる
――まず、現在の部署や業務内容と、これまでのご経歴を教えてください。
菅野:2020年2月に一休に入社し、データサイエンス部でデータプラットフォームエンジニアとして主にデータ基盤まわりを担当しています。現職が3社目になります。1社目はSIerでアプリケーションエンジニアやデータベースエンジニアを経験。2社目のときに、AI事業部が発足することとなり、そこに参入したいと考え、アピールする資格としてG検定を取得しました。
――2社目の前職時代にG検定を取得されたのですね。もともとAIには興味を持っていたのですか?
菅野:当時は、最新技術というよりかは古い技術を扱っていたので、これから10年20年先まで活かせることをやりたいなという思いが前提としてありました。そんなときにちょうどAI事業部が発足することとなり、アピールするのに一番資格がわかりやすいなと思いG検定を受験しようと決めました。
――学習されてみての感想は。また、モチベーションを維持するための秘訣があれば教えてください。
菅野:勉強期間は約1カ月ほどです。苦労した点は、当時は問題集や教材がまだあまりなく、情報もとにかく少なかったことですね。仕事終わりに勉強しなければいけないので、時間の確保も大変でした。
将来的には、AIに関わることをやっていきたいとも考えていたので、「なりたい像になるための礎になる」という思いがモチベーションになっていました。つまりは「市場価値の高い人材になりたい」ということですね。イコールそれは“スキルの掛け算”だと思っています。アプリケーションエンジニアやデータベースエンジニアをやれる人は何万人もいるわけで、それはそれで強みですが、ものすごく市場価値が高いかというとそうではない。私は引き出しが一つのシンプルな状態だったので、それにAIを掛け合わせることができればそれだけ価値が高い人材になれるはず、と思っていました。
データサイエンティストである榊CEO直属の部署
――現職の一休さんに転職された経緯を教えてください。
菅野:前職のときに G検定に合格し、アピールしてAI事業部に入ることができました。しかし、制約があったり融通が利かなかったりすることも多く、内製化できる会社でなければやりたいこともやれないなということがわかりました。そこで、内製化できる企業や自社サービスを提供している企業を探し、一休に転職しました。
代表取締役社長CEOの榊󠄀(淳)はデータサイエンティストでもあります。一休に入社を決めた理由はそこです。CEOが現役のデータサイエンスをバリバリやってるなんて聞いたことないですからね。
実際に一休はデータドリブンな文化があって、データの民主化を推進しています。営業も含めて全社員がSQLから叩いてデータの抽出が可能です。よくある企業さんはエンジニアがBIツールのダッシュボードを使ってデータを閲覧することだけが多いと思うんですが、その手間を省いて「ほしい情報は自分で抽出して見てね」という形をとっています。
――データサイエンス部での役割や目指しているミッションを教えてください。また、その中で菅野さんはどの部分を担当されているのですか?
菅野:データサイエンス部は、①内製のマーケティングツールや社内アプリの運用・改善を行う「アプリケーション」、②施策に使うためのリアルタイムログデータ収集や、基幹データベースから取り込んだデータを分析に使いやすく加工して整備する「データエンジニアリング」、③②で集約されたデータを元に、機械学習や自然言語処理等を使ってユーザーサービスを改善する「データサイエンス」の3つの役割があります。私は②のデータエンジニアリングがメインの担当です。
例えば「あなたにおすすめの宿」を表示するリコメンド機能を搭載するならば、データサイエンスがモデル構築をして、そのためのデータを私がいるデータエンジニアリングが整備して、そして実際に施策に組み込むのがアプリケーション、というイメージです。しかし、3つの職種や担当にかかわらず、業務では幅広く携わっています。
当社で目指しているのは、顧客体験の最大化です。一つには検索不要で予約ができる世界です。例えば「北海道に旅行」と言っても、目当てが「カニ」なのか「温泉」なのか「スキー」なのかはユーザーによって異なります。実際に宿泊先を探すときにはキーワードで打ち込んだり、こだわり検索で「温泉が好き」と入れたり、ユーザーが能動的にアクションを起こすことになります。
そうではなく、ログインしたら「このお宿はいかがですか」と提案がなされ、「そうだね」と承認するぐらいで予約が完了するという世界です。すでにYouTubeでは、アプリを開くと自分の趣味嗜好に合った動画がトップ画面に出てきますよね。それと同様に、一休に会員登録して使えば使うほど、その人に寄り添ったものになっていく。究極的に言えばコンシェルジュです。ユーザーファーストで顧客体験をより良くするために、日々議論が進んでいます。
――転職してから働き方や環境は変わりましたか?キャリアアップにつながっているという実感はありますか?
菅野:だいぶ違いますね。データサイエンス部はCEO直属の部署で、毎週1on1ミーティングをするため経営者目線が鍛えられます。「今ユーザーはどういうニーズがあるのか」というマーケティング要素はセンスめいた部分もあって、自分は圧倒的にビジネススキルが弱いなと痛感させられます。以前は「自分はエンジニアだから関わらなくていいや」と思っていたところもありましたが、現在は「ビジネス視点ありきで考えよう」と発想できているのは大きな変化ですね。
給与面もだいぶ違って、給料は上がりました。転職した瞬間というわけではなく、入社してから2年目までの上がり幅が大きいという感じですね。
“AIファースト”でなくあくまで“ユーザーファースト”
――「スキルを掛け合わせることで市場価値を高める」というお話もありました。国内でもデータサイエンスの重要性が高まる中、市場価値を高めるためにデータサイエンスのスキルを身につけることは良い選択肢だと思われますか?
菅野:100人の凡人のデータサイエンティストがいるよりも、1人のスペシャリストがいた方が良い世界だと思っているので、人数自体はそんなに必要ないかなと思っています。当社の場合は、例えばリコメンド機能を開発・導入して、売上が10%上がったという成果が出て初めて意味があります。成果が生まれなかったのならば、どれだけすごい技術を持っていてすごいモデルを開発してもやった意味がない。ここはセンスが求められる部分でもあります。どうしてもやりたければやれば良いとは思いますが、あくまで当社では成果まできちんと求められます、ということです。
――「100人の凡人ではなく1人のスペシャリスト」になるために重要なことは何でしょうか?
菅野:当社で活躍している人をイメージすると、「データサイエンスだからその領域しかやらない」のではなくて、その人単独でサービスを世の中に出せるぐらい感じの働きぶりをしています。サッカーで1チーム11人いるうち、1人で5人分の働きをするようなイメージです。1つのことに特化するよりもあらゆることができる。そのためには様々な経験とスピード感が重要だと思います。成果を出すための正解なんてなくて、強いて言えばユーザーの反応を見るしかありません。ただ、その試行錯誤も「数打ちゃ当たる」戦法ではなく、最初から近いところに当てていけるセンスも必要なのかなと思います。
――最近では、データサイエンティストの方でG検定を受験されるケースも増えています。AIの重要性やその変化について、菅野さんはどのように捉えていますか?
菅野:最近はチャットGPTの登場に大きな衝撃を受けました。ビジネスに取り入れて活用することを模索している企業も多いと思いますし、当社でも取り込めないかと部内協議しているところです。感度良くアイデアを拾っていくことは重要な視点だと思います。
しかし、当社は決して「AIファースト」というわけではありません。ルールベースでも成果が出せれば良いと考えているからです。あくまでルールベースで実現できない、あるいは機械学習の方が成果が出せた場合に採用するイメージです。つまり技術的には大したことなくてもユーザーによりよいものを提供することが最も重要であると考えています。