「エンジニアリングシンポジウム2020」 イベントレポート(前編)

「エンジニアリングシンポジウム2020」 イベントレポート(前編・松尾理事長講演)
『AI社会実装~大企業×テックベンチャーの共創による日本のビジネス未来~』

2020年10月16日(金)、教育会館一ツ橋ホールにて開催された一般社団法人エンジニアリング協会主催の『エンジニアリングシンポジウム2020』にて、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター技術経営戦略学教授で一般社団法人日本ディープラーニング協会の松尾豊理事長が講演しました。

『AI社会実装~大企業×テックベンチャーの共創による日本のビジネス未来~』をテーマにディープラーニングの革新的技術が日本の産業を変えつつあること、さらに日本の競争力を強化するためにはテックベンチャーと大企業の単なる共同開発でなく発展的に協業していく「共創」が求められていること、その為には日本の産業を支える全ての人がどの立場においてもAIに対する認識を刷新し日本のモノつくりの技術とディープラーニングを武器に常に変化し続けることが重要だと語りました。
さらに後半には同テーマでのパネルディスカッションも行われ、大企業とテックベンチャーそれぞれの立場での現場の苦労や開発秘話、成功の秘訣から、ディープラーニングの技術を業界エコシステムに根付かせる重要性、日本の産業の将来まで、熱い議論が交わされました。

この模様を、2部に分けてレポートします。


~松尾理事長 講演レポート~

AIの先にある、急激な進化を遂げる「ディープラーニング」とは何なのか。

最近は日本全体でDXが注目され、同時に「AI」という言葉が独り歩きしてしまっていますが、まず「AI」と言うのはプログラムの事だという認識を持つことが重要です。つまり、ソフトウェアの技術だけでも効率化・自動処理は可能ということです。その上で、データを集めて、データを扱うことで、人間の「判断」「最適化」の部分がカバーされるのです。ただし、2000年代から世界で注目を集めながらも、残念ながら日本社会ではほとんど使われておらず遅れをとってしまいました。

現在の段階はさらに進み、既にディープラーニングが画像認識や言語処理の部分で急激に進行しています。日本がこれから世界に競争力を示すには、この3つ、プログラム、データ、ディープラーニングを上手く使っていくことが重要です。


◆<ディープラーニング×ハードの技術>でこそ、日本は有利な戦い方ができる。

ディープラーニングは既に、様々な形で産業界に影響を与えています(別途事例参照)。画像認識では、高速に読み取る技術が一般的になり活用され始めました。私の研究室の学生ベンチャーでも、画像認識をしながら穴を掘る作業を自動化し効率を上げる重機の自動操縦や、部屋に散らかったものを画像認識しながら片付けるロボットなどが進行しています。

このディープラーニングの「目の技術」と日本が強いハードウェアの領域を組み合わせ様々なものを自動化することが、日本に有利な戦略です。人手不足といった問題も自動化によって解消し、競争力に変えていけるはずです。

なかでも特に日本に有利となるのは、日本が得意とする高度なハードウェアの技術。米中をはじめとする海外スタートアップ勢は、現状では自動運転、医療画像、画像診断といったハードウェア自体を作り替える必要のない比較的シンプルな領域に強い。日本は、強みであるハードウェアの技術力とディープラーニングをかけ合わせれば強さを発揮していけるのではないでしょうか。例えばインフラ等の領域で戦い方があるでしょう。






◆今後の日本で起こる産業の大きな変化とは?

デジタル化により作業が効率化されていくと、今までフラグメント化されていた小さな企業が多かった産業が凝縮し、巨大な企業が生まれる可能性を示唆。特に食品加工業や住居に関わる産業など。

これまでインターネットを中心とする産業だけで特異的に起きていた変化が、リアルな社会に染み出てきています。これは、データを活用することによって企業のPCDAのスピードが早まっているということなのです。例えば、Eコマースはデジタルで完結するので、お客の画面に何を載せれば購入されるかどうか、アルゴリズムを変えるのが良かったかどうかが一瞬でわかります。それがUber のように現実世界でも分かるようになった。つまり、データとして取ることが難しく、それによって行動を変える提示の仕方が難しかった領域でもPCDAが回り始めたのです。業種によって差はあるものの、製品のライフサイクルも同様のことが起こっており、ひとつの企業が競争優位を保てる期間も短くなってきています。これからは、リアルな現場を持つ産業、ローカル性が強くフラグメント化された産業で巨大な変化が起きるだろうと思っていますが、その環境下で企業が勝ち続けるには変化していくしかないのです。ビジネスマンも同じで、若いころに得た知識や経験だけで一生働くというのはこれからは難しく、常に見直しながら新たな知識を身につけることを繰り返さなければ、活躍はできないでしょう。世界のクロックスピードが速まる中、人も企業も競争力を維持するには、「変化に対応できることが力」であり、「変化のスピードこそ力」です。

◆日本の取るべき戦略は?今こそチャンスと捉え、変化を力に。

では、この先何が起こるでしょうか?デジタル化によって業界ごとに人の力に頼っていた領域が強力に効率化されスピードアップするでしょう。望む望まざるに関わらず変わっていく中では、この変化を積極的に捉えることが重要です。あちこちで巨大な変化が起こるのを面白いと思うか怖いと思うか。日本からグローバルな市場を取れるチャンスもある時代と捉えればワクワクするのではないでしょうか。企業はAI、IT、デジタルキーパビリティ、リテラシーを持ち、内部にチームを作り、スタートアップ企業と連携するなどしながら、日本の強い領域で変化をものにしていくしかない。そして、グローバルに市場を取り競争力につなげて欲しいと思っています。


最後に松尾理事長は、企業側への提言として、「技術と若い人にきちんと投資すること」「DLを活用し変化に早く対応する力をつけること」が、日本企業が世界で競争力を維持することになるとし、若い人や女性、外国人でも活躍できる場を提供することがイノベーションを生み、そこに日本の得意分野とも言えるハードとディープラーニングという武器を組み合わせれば、変化する側となり変化を味方にすることが出来る、と締めくくりました。



<参考>
~日本のディープラーニング活用事例~ディープラーニング活用をしたプロジェクトはこれまで沢山生まれているが、成功しているのは付加価値の向上や、業務全体の効率化、さらには業界全体を効率化させているもの。

<COVID-19対策>
・顔認識による表面体温の測定(コニカミノルタ、NEC)
・ワクチン開発と抗体誘導ペプチド推定AI(フューチャー、アンジェス、大阪大学)
<製造業>
・不良品検知(キューピー/ブレインパッド)
・Self Driving Vehicle自動運搬機(Musashi AI)
<物流/倉庫>
・物流施設の駐車場満空把握・管制(ニューラルポケット)
・ヒアリ・ハット状態検出、出荷・検品作業の効率(省人)化、関連機器の異常検知等(ABEJA)
・ナンバープレート認識によるトラック作業・待機状態把握(モノフル、フューチャースタンダード)
<建設>
・建物設備維持管理の最適化(竹中工務店/HEROZ)
・構造設計・施工の効率化(同)
<インフラ>
・ひび割れ・腐食等の抽出作業を自動化(イクシス)
・送電線のインテリジェント監視/点検(HUAWEI)
<プラント>
・溶接部のAI超音波深傷検査システム(日立造船)
・ごみ処理におけるごみ種の識別(荏原環境プラント)
<素材>
・新材料探索・開発の効率化(マテリアルズ・インフォマティクス)(MI-6)
<農業>
・ピンポイント農薬散布(OPTIM)
・収穫ロボット(AGRIST)
<水産>
・水産養殖におけるスマート給餌(UMITRON)
<食品加工>
・食品加工のための骨領域判別画像認識AI(調和技研)
・AIによる部分肉認識システム(都築電気、イシダ)
<小売>
・棚SCAN-AI棚割最適化(NTTドコモ)
・ささげ用原稿ライティングAI(Liaro)
<エンタメ>
・DeepAnime(Algoage)
・漫画の多言語自動翻訳(MANTRA)

※レポート後編はこちら
https://www.jdla.org/events/2020111701/